糖尿病患者の心血管系合併症に対する効果にはACE阻害薬とARBで明らかな違いがある ―ACE阻害薬が第一選択薬として推奨される
2015-08-10
キーワード：糖尿病、心血管系合併症、レニン・アンギオテンシン系、ACE阻害薬、ARB、メタ解析
糖尿病治療の目標は、動脈硬化の進行による心筋梗塞や脳梗塞などの大血管系の合併症を予防することにあるといえる。
近年、血圧や塩分の調節に関わるホルモン系システムである、レニン・アンギオテンシン系の亢進が動脈硬化の進行に関与していることが明らかになってきており、血糖コントロールに加えて、レニン・アンギオテンシン系の亢進を抑えることが糖尿病における大血管系合併症の予防につながると考えられている。
レニン・アンギオテンシン系の亢進を抑える作用を持つ高血圧治療薬として最初に開発されたのが、アンギオテンシン変換酵素阻害薬：ACE阻害薬であるが、咳の副作用が出やすいとして、二番手のアンジオテンシン�脅�容体拮抗薬：ARBが主流となり様々な薬剤が市場を占めている。
しかし、ARBの心血管系や脳血管系障害を改善する作用の優位性は証明されていない。
今回、ACE阻害薬とARBの心血管系合併症の改善効果に関するメタ解析により、糖尿病患者においてはACE阻害薬が第一選択薬として推奨されることを結論づけた論文１）が発表されたので、要旨を紹介する。
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この研究の目的は、糖尿病患者の心血管系合併症に対する作用に関する、ACE阻害薬とARBの効果の違いを明らかにすることである。
糖尿病患者においてACE阻害薬とARBの効果をランダム化比較試験で、総死亡、心血管系死亡、心血管系合併症の発生について12か月以上観察した研究を抽出した。
その結果、ACE阻害薬(23試験、32,827名)に関しては、総死亡13％、心血管系合併症による死亡17％、主要心血管系合併症14％（心筋梗塞21％、心不全19％）と、有意な減少を認めた。
これらの結果は、血圧、尿たんぱく、ACE阻害薬の種類、糖尿病のタイプによる違いは現れず、コントロール群としてプラセボ、実薬のいずれと比較した場合にも同様の結果であった。
ARB（11試験、17,334名）に関しては、主要エンドポイントにおける有意な減少は認めなかった。
この結果は、コントロール群としてプラセボ、実薬のいずれと比較した場合も同様の結果であった。
唯一、副次エンドポイントのうち、心不全の発生において30％の減少を認めた。
ARBのうち、オルメサルタン（商品名：オルメテック）を使用した研究においては、心血管系合併症による死亡の有意な増加を認めた。
脳卒中に関しては、ACE阻害薬、ARBともリスクの減少を認めなかった。
考察として、これまでの研究では、ACE阻害薬とARBの効果の差に着目して、糖尿病患者での総死亡、心血管死の発生について評価した論文はほとんどなく、この研究が心血管系合症予防におけるACE阻害薬とARBとの違いの臨床的重要性を確かなものとした。
糖尿病患者における心血管死は、糖尿病でない患者の2〜4倍高い。ACE阻害薬は糖尿病患者の高い死亡率や合併率を減らすための第一選択薬として推奨される。
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ARBはACE阻害薬に比べて価格が高く、そのメリットは疑問視されながらも、市場はもっぱらARBが占めている。
データ改ざん等で話題となったバルサルタン（商品名ディオバン）やカンデサルタン（商品名ブロプレス）は、ARBに属する。
これら主要なARBの特許期間が切れ、後発品や、利尿剤など他の薬効群の高血圧治療薬との配合剤が目白押しである。
今回紹介した論文は、データ源、解析方法ともにその信頼度は高く、糖尿病患者の心血管系障害に関するメタ解析結果としてACE阻害薬の有用性を証明した意義は大きい。
また、オルメサルタンの心血管死リスクの増加も重視すべき結果であることを強調したい。（N.M）
文献１）Jun Cheng.MD，et.al；“Effect of Angiotennsin-Converting Enzayme Inhibitors and Angiotensin ��Receptor Blocker on All–Cause Mortality,Cardiovascular Deaths,and Cardiovascular Events in Patients With Diabates Mellitus“， JAMA Internal Medicine Vol.174,No.5（May.2014）
２）福田 大受ら，「動脈硬化病態生理におけるレニン・アンジオテンシン系の役割」；J Jpn Coll Angiol, 2008, 48: 449–454
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