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DPP-4血糖降下剤サキサグリプチン(オングリザ)、アログリプチン(ネシーナ)と心血管系リスク

2015-04-13

キーワード:2型糖尿病治療  DPP-4阻害剤 心血管系リスク FDAガイダンス 

 2型糖尿病治療薬において、主要になりつつある血糖降下薬がDPP-4阻害剤である。DPP-4阻害剤は、高血糖時にのみインスリン分泌を促進することから、低血糖のリスクが低いとされ、インスリン分泌低下による高血糖患者が多い日本人の糖尿病治療に適した薬として、現在7種類のDPP-4阻害薬が発売され、その使用は急速に拡大している。

 2013年9月、DPP-4阻害剤であるサキサグリプチン(オングリザ)とアログリプチン(ネシーナ)に関して、心血管系リスクの高い患者での、FDAガイダンスに対応した心血管系リスク評価に関する試験結果を示す2つの論文1)2)が相次いで発表された。心血管系リスクの減少を主要評価項目とする試験であったが、両試験とも、心血管系リスクの軽減は示さず、サキサグリプチンに関しては、心不全による入院の増加を示す結果となった。

 これらの試験結果について、糖尿病と心血管系合併症を専門とするEberhard Standl医師が、上記論文の著者に疑問を投げかけ、その質疑応答がNEJM誌に掲載された(※1)ので紹介する。
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 Standl医師は、両試験共に、これらDPP-4阻害剤の使用目的である心血管系リスクの軽減効果が得られなかったことに加え、これらの薬剤が心不全を増加させるのでないかとの懸念をもたらしたと指摘した。オングリザに関する試験では、心不全による入院がプラセボ群に比べ27%多く発生し、ネシーナの試験では、試験に参加した28%の心不全患者の結果について何ら言及していないという点である。また、心不全患者における脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)注1が心不全でない患者に比べて100倍高いとされているが、BNPはDPP-4阻害剤により分解が抑えられることから、DPP-4阻害剤が心不全と関係している可能性を除外できないと指摘した。

 同医師の指摘に対し、オングリザ論文の著者は、心不全による入院の増加についてはさらなる分析が必要であるとし、12.8%を占めた心不全既往者の主要エンドポイントと副次エンドポイント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性虚血性脳卒中+心不全、冠血管再生術、不安定狭心症による入院)のリスクは心不全既往のない患者と同等であったこと、心不全による入院の絶対的リスクは心不全既往者で高かったが、相対的リスクは同等であったと述べた。また、BNPの問題に関しては、指摘に同意し、重要な臨床的、研究的課題であると答えた。

 ネシーナ論文の著者は、心不全のイベントに関して言及していないことに関しては、主要な結果における項目ではなかったとし、他のDPP-4阻害剤で心不全リスクが問題になっているので、心不全リスクに関する分析を開始したところであると答えた。

 BNPの問題に関してネシーナは、心不全の既往を持つ患者とBNPレベルの上昇した患者を含む2型糖尿病と最近の冠循環症候群を有する患者において、心不全による入院を含む心血管アウトカムをプラセボと比較して増加させなかったと述べた。さらに、ネシーナはランダム割り付けの前に心不全の既往を持つ患者において新しい心不全も引き起こさなかったし、心不全の悪化も引き起こさなかったと述べた。そしてこの重要な疑問については、今後も結果の分析を続けると答えた。

注1)脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP):主に心室から分泌されるホルモン。利尿・血管拡張作用をもち、体液量や血圧の調節に重要な役割を果たす。心室に負担がかかると分泌量が増加し、心臓の負荷を軽減させる働きがあることから、心不全の診断・治療薬として利用される。DPP-4阻害剤によるBNP活性への影響が研究されている。
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 心血管系リスクに関するDPP-4阻害剤の有効性と安全性を評価する2つの大規模臨床試験の結果を伝える情報として、協和発酵キリンのニュースは、「心血管疾患死、心筋梗塞または脳卒中のリスクを増加させず、主要安全性評価項目を達成」という見出しでこの結果を紹介している(※2)。しかし、実際には、心血管系リスクを軽減するという治療目的を達成できず、これらの薬の存在意義を証明できなかった試験結果である。医療現場では、血糖管理を改善したとする追加解析結果が強調され、DPP-4阻害剤の使用量は増加する一方である。

 血糖管理を目的化し、HbA1cを指標とした血糖降下薬による治療が日々継続されており、検査結果に一喜一憂して、薬を次々と変更したり、多剤併用に至る糖尿病治療の現状であるが、長期的な視点で、生活改善を重視した日常治療が確立されることを望みたい。 (N.M)

文献
1) Scirica BM, Bhatt DL, Braunwald E, et al. “Saxagliptin and cardiovascular
outcomes in patients with type 2 diabetes mellitus.”N Eng J Med 2013;369:1317-26.

2) White WB, Cannon CP, Heller SR, et al. Alogliptin after acute coronary syndrome in
patients with type 2 diabetes. N Eng J Med 2013;369:1327-35.
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