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抗がん剤治療のコストは正当化されるか

2015-02-19

キーワード:抗がん剤、高薬価、生物学的製剤、抗体医薬、無視された疾患


 新規開発の抗がん剤の多くが非常に高い薬価で承認されている。一般的に、抗体医薬などの高分子薬は低分子薬と比較し開発コストが大きいと言われている。しかし、製薬企業から提出される製造原価については、その内訳がオープンになっているわけではなく、新規抗がん剤の薬価が適切かどうか判断する材料を我々はほとんど持っていないのが現状である。高すぎる抗がん剤は費用対効果の問題(※1)だけでなく、公的医療保険の維持も脅かしている。
以下は、高価な抗がん剤治療コストについて問題提起しているスクリップ電子版2014年4月1日号の記事(Is the cost of anticancer therapy justified?)の要約である。

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 心血管疾患とがんは先進国で最大の死因である。しかし、他のタイプの疾患も罹患率が非常に大きい。例えば、Datamonitorの調査データによると、2013年の1年間で、米国では1億6820万人が糖尿病、肥満、骨粗しょう症、脂質異常などの代謝性疾患に罹患し、1億4450万人が偏頭痛、うつ病、統合失調症、てんかん、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症などの中枢性神経疾患に罹患している。高血圧や心筋梗塞などの循環器疾患は、年間8510万人が罹患している。これに対し、がん罹患者は、年間120万人である。これらの疾患は、患者の病気としての負担だけではなく、社会により広く治療コストとして財政負担を課している。

 それでは、治療にかけているコストは、それぞれの病気の負担の重さを反映しているだろうか。2013年に代謝性疾患にかけたコストは221億ドル、循環器疾患には238億ドルである。患者ひとりあたりでは、代謝性疾患は131ドル、中枢性神経疾患は265ドル、循環器疾患は279ドルである。

 一方、抗がん剤のコストは、380億ドルにも上る。患者ひとりあたりのコストは、3万781ドルである。つまりがん患者には、循環器疾患患者の110倍ものコストをかけているのである。

 なぜそのような違いが起こるのか。これは、中枢神経疾患や循環器系の疾患は比較的古くから使われている小分子の薬で治療される傾向があるのに対して、がんは極めて高価で非常に特殊な生物学的製剤で治療される傾向があるためである。しかし、同じ様に生物学的製剤で治療される傾向がある免疫・炎症の分野では、患者ひとりあたりのコストは2227ドルである。

 抗がん剤と他の疾患治療剤との間の価格差は、薬剤開発の方向性にも影響を与えている。たとえば、現在臨床治験が行われている抗がん剤の数は1324であるのに対して、循環器疾患治療薬の数は394にすぎない。これは、製薬企業が疾患の重要度や必要性よりも、収益を優先しているからである。このことは、いわゆる「顧みられない病気」(ネグレクトディジーズ)の新薬がほとんど開発されないという、より大きな問題につながっている。抗がん剤の開発の方向性を軽視するものではないが、もっと他にできる(すべき)ことがあるのではないか。

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 かつて、製薬企業の稼ぎ頭であった高脂血症治療剤などの生活習慣病治療剤の多くが特許切れとなり、製薬企業は抗がん剤の開発に生き残りをかけているといっても過言ではない。他の分野としては、ワクチンもその一つであるが、抗がん剤やワクチンは製薬企業にとって収益性が高い分野なのであり、臨床上の必要性とは異なる価値観で開発が行われている。国際社会は今後、このような製薬企業主導の新薬開発に対して何らかの対応をしていかなければならない。(G.M)