米国の消費者・医療5団体が共同で禁煙補助剤バレニクリンの警告・規制強化の「市民請願」書を提出
2015-01-27
(キーワード: 禁煙補助剤バレニクリン、チャンピックス、警告・規制強化請願、米国消費者医療団体)
禁煙補助剤バレニクリン(チャンティックス®、日本名チャンピックス®、ファイザー社)の精神神経系害作用が注視されているが、米国の消費者医療団体のコンシューマーレポート、薬物療法安全性研究所(ISMP)、米国ヘルスリサーチセンター(NCHR)、米国医師連盟、パブリックシティズンは共同して、本剤についてより情報量が多く包括的な黒枠警告などを求める「市民請願」書を、2014年10月8日に食品医薬品庁(FDA)に提出した(※1)。「市民請願」(Citizen Petition)は、FDAの規制に修正などを求める際の行政手続きとして定められている。
以下はその要旨である。
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われわれは、FDAが2009年7月に黒枠警告を求めて以降に明らかになった新たな科学情報を、バレニクリン(チャンティックス®)錠の黒枠警告と適応欄に反映するよう求める。
本剤の精神神経系副作用は販売開始以来8年間継続してFDAに報告されており、患者の本剤使用に比例している。本剤の副作用をめぐる訴訟で、ファイザー社は2009年に黒枠警告がなされる以前の2500人の被害者に対し、約30億ドルを支払っている。黒枠警告以降も2010年7月までに、26000の副作用報告がされ、それには589の重篤なケース、150の自殺完遂、102の敵対行為・攻撃、56の精神異常が含まれている。その後も査読誌に掲載された文献が攻撃・暴力を含むバレニクリンの新たな重要な洞察を、他の禁煙補助治療とも比較して提出している。
われわれは、次の事項を求める。
1. 添付文書のハイライト欄と黒枠警告に自殺行動、攻撃・暴力、精神異常、うつを含む重篤な神経精神系副作用を明確に記載する。
2. 黒枠警告に、眼前暗黒失神(blackout)、全身けいれん、弱視、他人に危害を及ぼす状況(飛行機操縦、救急車運転、大型トラック運転)での複数の副作用のリスクについて記載を加える。
3. 適応欄に、パイロット、航空運輸コントローラー、軍事ミサイル要員、警察、消防士、緊急医療従事者など注意を要する危険な職業従事者に対する本剤の使用制限について記載を加える。
4. 黒枠警告中で本剤の利点を記載する不適切な記載(他の禁煙補助剤には見られない)を削除する。
5. 最近なされた警告・注意欄にある本剤の精神神経系副作用に関するメタアナリシスの人を誤らせる記載を削除する。
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当会議は禁煙補助剤バレニクリンについて、2009年7月6日厚生労働省およびファイザー社に対し、添付文書の改訂、リスク軽減の取り組み強化、適切な薬剤疫学調査の実施を求める要望書を提出した(※2)。
要望書提出後の同年8月7日、厚生労働省は精神神経障害症状を「警告」欄に記載するなどの添付文書の改訂を指示したが、精神神経障害症状が禁煙自体によっても起こりうることを不当に強調するなど不十分なものであったため再度要望書を提出している(※3)。
『正しい治療と薬の情報(TIP)』誌は、2014年8月発行号に「バレニクリンによる自死―因果関係はもはや明確であるー」を掲載している。
ファイザー社はこれら消費者・医療5団体の要望とは逆に、FDAに逆に本剤添付文書の黒枠警告を外すよう求めており、FDAのレビュアーもこれを支持した。この市民請願がされた後の2014年10月16日にその是非についてのFDA諮問委員会が開催された。これに伴う公聴会で、薬物療法安全性研究所(ISMP)、米国ヘルスリサーチセンター(NCHR)は、黒枠警告を外すという緩和でなく、上記内容での規制強化を行うよう証言した。審議の結果FDA諮問委員会は黒枠警告の削除をペンディング(保留)にしたと報道されている(スクリップ電子版2014年10月16日)。
本剤の日本の添付文書においても、これらの神経精神系副作用の記載は、禁煙自体によっても起こることを不当に強調するなど警告として極めて不十分であり、改善が必要である。 (T)