糖尿病治療剤を比較する ―際限のない膨張にどこで歯止めをかけるのか
2014-12-11
JAMA internal medicine 誌2014年3月号(*1)
キーワード:糖尿病治療薬 FDAガイダンス 心血管系リスク評価
FDAが糖尿病治療薬の新薬承認に関して課しているガイダンス(*2)の基準は、短期的な心血管系リスクの増加を一定以内にとどめることを目的としている。
しかし、糖尿病治療薬の本来の目標は長期的な心血管系リスクの軽減のはずである。また、DPP-4阻害剤のオングリザのように、FDAの基準を満たしたことで心血管系リスクは問題なしと宣伝されてしまう一方で、心不全による入院がコントロール群に比べ有意に増加したという事実は隠されてしまう。
昨今、新規糖尿病治療薬の承認が相次いでいるが、短期的な血糖降下作用と、心血管系リスク増加は許容範囲以内という評価を受けているに過ぎず、長期的な効果や安全性は何ら証明されていない。
このように、長期的な有効性と安全性を評価しない大規模臨床試験ばかりに高額な資金を費やし続けることを批判した論説を紹介する。
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米国では、2500万人の糖尿病患者が使用する糖尿病治療薬の費用は180億ドルを超える。これほど巨大な経済と健康に影響を与えるにもかかわらず、糖尿病治療薬を選択する上で有意義な効果比較試験の成績は存在ない。糖尿病治療剤の重要な目標は、長期的な糖尿病合併症の減少にあるにもかかわらず、血糖値を低下させることを目標にして薬を使うことによって必ずしも長期的な心血管系リスクを改善する結果になるとは限らない。
たとえば、ビグアナイド系糖尿病治療薬メトホルミンに、ロシグリタゾン(アバンディア)を併用した群と生活改善プログラムを加えた群を比較した試験(TODAY試験)が最近完了した。その試験では、アバンディアを併用した群の方が血糖コントロールは優れていたが、顕著に体重が増加し、心血管系リスクが高まる可能性が示された。
同様に1兆ドル試験とも呼ばれるGRADE試験(メトホルミンをベースに、4種類の糖尿病薬の併用効果を5年間追跡する)が開始されたが、心血管系リスクの軽減を長期的に評価することを目的にした試験ではない。
FDAが糖尿病治療薬に課している承認時のガイダンスでは、心血管系リスクの許容幅は広い。
患者が知りたいのは新薬が自分に起こるかもしれない心血管イベントを減らしてくれるかどうかなのである。容赦なく増加する2型糖尿病と新たな患者への影響を考えるならば、長期的な安全性、有効性が証明されない大規模臨床試験に高いコストを投じ続けるわけにはいかない。
糖尿病における治療法の選択を改善するためには、心血管系リスクの減少を評価し得る、長期的な試験への投資が必要である。心血管系リスクの減少を評価目標とする試験は、年数を要し、高いコストがかる。血糖管理の複雑性もあるが、GRADEのような比較試験を10年以上へと拡大すれば、長期的な心血管系リスク評価を可能とし、臨床効果に関する情報を提供し得るであろう。
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日本糖尿病学会は、2013年5月、熊本大学で開催した学会にて、糖尿病患者の合併症を防ぐための血糖管理目標値をHbA1c7.0mg/ml未満とすることを発表した(熊本宣言)(*4)。これは、インシュリン治療を実施している2型糖尿病患者を対象に、従来の1日1〜2回インシュリン注射実施群と1日3〜4回インシュリン注射を行う強化治療群について、合併症発症への影響を6年間調査した研究結果(熊本スタディー)によるもので、これまでの管理目標を緩和するものと言える。しかし、心血管系リスクの減少に関する評価という点では、熊本スタディーでも有意な結果は得られていない。
糖尿病治療薬の真の有用性を評価するための大規模な、長期的試験の実施を求める一方で、糖尿病治療のあり方として、血糖値のみを指標にして糖尿病治療薬の選択に終始する治療ではなく、生活や労働に視点を置く長期的な健康維持を目標にした糖尿病治療の確立が望まれる。(N.M)
文献:
*1 Kasia J.Lipska.MD.;“Comparing Diabates Medications −Where Do We Set the Bar” JAMA Internal Medicine March2014,Vol.174 Number3
*2 Guidance for Industry. Diabetes Mellitus – Evaluating Cardiovascular Risk in New Antidiabetic Therapies to Treat Type 2 Diabetes. U.S. Department of Health and Human Services, Food and Drug Administration, Center for Drug Evaluation and Research (CDER). (Dec 2008).