糖尿病薬は心血管系イベントの抑制が本来の目的であるにかかわらず・・・−「糖尿病治療剤の心血管系安全性―ロシグリタゾンの経験からの洞察」
2014-12-11
キーワード:糖尿病治療薬 心血管系リスク 糖化ヘモグロビン(HbA1c) アバンディア インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬)
糖尿病患者が死亡にいたる最大の原因は心血管系合併症と関連している。心血管系リスクの減少は、糖尿病治療の大きな目標である。しかし、現在の糖尿病治療薬の臨床開発は、その評価目標を、心血管系リスクの減少そのものではなく、血糖値の指標である糖化ヘモグロビン(HbA1c)の低下においている。しかも、これまでの大規模臨床試験では、強力な血糖コントロールが心血管系を含む死亡の増加をもたらしたり(ACCORD試験)、心血管系リスクを逆に高めているのではないかとの問題点も指摘されている。
現在、欧米の糖尿病治療薬の新薬承認では、心血管系リスクを増大させないことが評価対象になっているが(日本のガイドラインはそれをも求めていない)、そもそも糖尿病治療薬は、心血管系リスクを減少させることがその目標であったはずではないか。
この点に関連して、ニューイングランド医学雑誌(NEJM誌)2013年10月3日号(*1)が、「糖尿病治療剤の心血管系安全性―ロシグリタゾンの経験からの洞察」と題した論説を掲載しているので、その要旨を紹介する。
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米国FDAは、2007年、アバンディアの心血管系リスクを増大させるとの解析結果を重くとらえてその使用を厳しく制限し、2008年には、製薬企業に対して、すべての新規糖尿病治療薬の承認に必要な心血管系リスク評価の基準を定めた新ガイダンスを発表した(*3)。
その後、アバンディアに関して実施された試験(RECORD試験)の結果は、FDAの新ガイダンスに適合し、過剰な心血管系リスクの問題はないというものであった。
他方、今号のNEJMには、インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬)注であるサキサグリプチン(商品名:オングリザ)とアログリプチン(商品名:ネシーナ)の心血管リスクを評価した臨床試験成績に関する論文が掲載されている。2つの試験結果ともFDAの新ガイダンスには適合しているが、いずれも心血管系イベントを減少させなかったとの内容であった。また、オングリザは期待に反して心不全による入院を増加し、高頻度の低血糖をもたらしたとの記載も存在する。
アバンティアの心血管系リスクへの当初の疑念が、新規糖尿病治療薬を承認するFDAのポリシーに大きな変化をもたらしたことは確かである。しかし、アバンディア、オングリザ、ネシーナは、FDAガイダンスには適合しながらも、いずれも心血管系リスクの減少を証明できていない。代替指標として糖化ヘモグロビン値を用いても、心血管リスクと糖尿病治療の心血管便益との両方においてエビデンスとはなっていないのである。
糖尿病治療の選択肢は増加しており、さらに多くの治療薬が開発中である。おそらくFDAは、アバンディアの経験から、費用に見合った医学的根拠の確かさと、心血管系の安全性をさらに重視していくことになるだろう。
血糖コントロールの改善を目標にした新薬が、心血管系の利益をもたらす可能性はあるかもしれないが、いまだ証明されていない。糖尿病において心血管系リスクを減少させる最善の方法は、強力な血糖コントロールではなく、基本的な心血管系リスク因子を積極的に管理することに焦点をあてるべきではないだろうか。
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当会議は、2000年10月、アクトスに関して、心毒性(心不全)、骨毒性(骨量減少)および発がん性(膀胱がん)が認められていることを理由に製造承認の取り消しを要望した(*4)。
また、2010年12月、インクレチン関連薬に関する要望書を厚生労働省に提出した。その中で「経口血糖降下薬の臨床評価方法に関するガイドライン」に、心血管系のリスク評価のための臨床試験を加えることと、インクレチン関連薬に関しても心血管系リスク評価を課すべきことを要求した(*5)。
現在、2型糖尿病治療薬の新薬承認は加速している。しかし、糖尿病治療=薬物治療ではないのではないか。論文の最後に強調している「標準的な心血管リスク因子を積極的に管理すること」の意味は、食生活、過労、ストレス等の生活管理を含む合併症の総合的な予防管理を指しているのではないだろうか。
注:糖尿病治療薬において、中心になりつつある血糖降下薬がインクレチン関連薬(DPP-4阻害薬)である。膵臓からのインスリン分泌を刺激するインクレチンホルモンがDPP-4により数分間で分解されることから、インクレチンの分解を抑えることを主作用とするインクレチン関連薬(DPP-4阻害薬)が開発された。DPP-4阻害薬は、高血糖時にのみインスリン分泌を促進することから、低血糖のリスクが低いとされ、インスリン分泌低下による高血糖患者が多い日本人の糖尿病治療に適した薬として、その使用は急速に拡大している。(N.M)
参考文献
*1 William R.et.al;“The Cardiovascular Safety of Diabetes Drugs−Insights from the Rosiglitazone Experience”;N.Engl.J.Med 2013;369:1285-1287