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韓国の保険償還ポジティブシステム発足2年、臨床価値・費用対効果での評価が軌道に

2012-08-23

(キーワード:費用対効果、医療技術評価(HTA)、HIRA、韓国ポジティブリストシステム)
当会議は医療技術評価(HTA)や費用対効果等に関する欧州の注目情報をこれまでたびたび取り上げてきた。(※1、※2、※3)今回はお隣の国、韓国のHTAに基づくポジティブリストシステム(※4)について取り上げる。以下はHealth Policy誌2012年第1号(※5、この号は医薬品問題を特集)の要旨である。
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 韓国は国民皆保険で支払者は単一である。かつて20,000の医薬品が保険償還されていたが、高齢化に伴う医療費の増加のもとで、2006年5月政府は医薬品支出の合理化計画を発表、ネガティブリスト方式をポジティブリスト方式に変え、新薬も直ちに評価対象にした。
保険償還する医薬品を定めるのが「ポジティブリストシステム」、保険償還しない医薬品を定めるのが「ネガティブリストシステム」である。この論文は、ポジティブリストシステム発足後の2年間を検証するはじめての論文である。システムが導入された2006年12月29日から2008年12月31日までにHIRA(健康保険評価機構)によってなされた決定の分析では、提出された91薬品のうち、64薬品が推奨され、27薬品が拒絶された。推奨された64薬品のうち、59薬品はすべての基準を満たしており、5薬品は救済措置によるものであった。27薬品の拒絶理由は、16薬品が受け入れがたい費用対効果、7薬品が臨床価値と費用対効果の不確実性、3薬品が臨床価値の不確実性、1薬品は他国との比較で不適切な価格とされた。比較薬よりも効果が優れた医薬品は推奨の可能性が非常に高く、治療コストが比較薬よりも小さいとき、また英国、カナダ、オーストラリアの評価委員会が推奨しているときは推奨の可能性が高まった。さまざまな決定基準のなかでも、臨床価値と費用対効果は保険償還の決定要素であった。HIRAと他国の評価機構との保険償還決定には大きな一致が存在した。
 薬剤経済学的評価は韓国では初めてのことにもかかわらず、政府、アカデミア、製薬企業はよく協働し、2年で評価を軌道にのせた。臨床的なエビデンスがないものについては公的な資金での臨床試験(韓国国営臨床試験事業団)が開始されたのも特筆される。また評価が択一的でなくQOLを考慮して柔軟に行われているのも特筆される(救済措置での扱い)。
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 日本でも医療技術評価や費用対効果についての検討が中医協で開始されているが、製薬企業や患者団体等からの猛烈な反発を受けている。評価の対象技術を「代替性のある医療技術と比較して著しく高額なもの」とするなど、限定された枠組みの中での議論で終わる可能性もある。しかし、限られた医療財源の中での効率的な医療費の使用には、HTAの導入は避けて通れないのではないか。HTAの導入には様々な課題があり、評価の基礎となるデータの確保や人材の育成など一定の時間が必要な課題もあり、長期的な展望に立った冷静な議論が望まれる。(G.M.)