26年間使われているICMJEガイドラインは「ゴーストライター」問題の対処に不十分
2012-02-02
(キーワード: 医学ライター、ゴーストライター、オーサーシップ(著者資格)、ICMJEガイドライン)
大手製薬企業がプロのライターに書かせた論文を、著名な医師・研究者の名義で医学雑誌に掲載するなどの「ゴーストライター」問題について、大手製薬企業団体の日米欧製薬協と国際製薬協は2010年6月に共同声明を出し、企業が依頼する臨床試験の公表論文の著者資格及び謝辞は、医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE)統一投稿規定に準じていなければならないとした(※1)。
しかし、ICMJE統一投稿規定は、著者資格(オーサーシップ)については一定の厳しい要件を示したものの、企業の大きな関与や代筆する医学コミュニケーション会社については目立たせないことを許してきた。一方、「ゴーストライター」問題に関しては、多忙な医師だけでは臨床試験論文はできず、プロの医学ライターが関与することで良い論文ができるとの主張もある。
「ゴーストライター」問題について、編集者たちがゴーストライティングと闘う論説を明らかにする(※2)など、積極的にとりあげてきているプロスメディスン誌が、同誌2011年8月号で、著者の資格、医学ライターの関与、企業との利益相反の明確化に関連して、独立コンサルタントの著者による注目される論考を掲載している。タイトルは「企業はどのようにICMJEガイドラインを、著者資格を操作するのに用いたか。ガイドラインはどのように改訂されねばならないか」である(※3)。以下にその要旨を紹介する。なお、同号には「メディカル・ゴーストライターの個人的見解」という興味ある記事も併載されているが、これについてはTIP誌(正しい治療と薬の情報誌)2011年8,9月合併号が詳しく紹介しているのでご覧いただきたい。
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論文の著者資格(Authorship)については、国際医学誌編集者委員会(ICMJE)が1985年以来、ガイドラインを示してきた。しかし、ICMJEのガイドラインは、出版企画、ゴーストライティング、ゲストオーサーシップ(著者として影響力の大きい医師の名前を借りる)のような企業のやり方に十分対処できていない。企業の出版、記録、テキスト分析を基盤として、そして医学コミュニケーション領域での著者の実経験から、この論考で製薬企業が単にICMJEガイドラインの裏をかくことに成功しただけでなく、ガイドラインの著者要件を著者とは何かを規定したものとして利用することに成功してきたことを示したい。
ICMJEガイドラインが著者資格(Authorship)と寄与者資格(Contributorship)を区別したことは、とりわけ企業を助けることにつながった。「寄与者」とすれば「著者」と違って小さく記載することが可能となるため、情報公開はしていると言いながら、実際にはこれを目立たないようすることができるようになったのである。しかも、寄与者の寄与度は主観的な判断を含むので、そのレベルを大きくすることも小さくすることもできる。
ICMJEガイドラインは、「著者」について次の3つの基準をすべて満足することを「著者」の要件としている。
(1) コンセプトとデザイン、もしくはデータ取得又はデータの解析と解釈に対する実質的貢献、
(2)論文の起草、又は重要な内容に対する重大な改訂、
(3)掲載版の最終承認。
しかし、医師がこれらに実際はわずかしか関与していなくても「著者」となるのに対し、企業が(1)(2)の大部分を行ったとしても、(3)の最終承認権限を医師に委ねてしまえば企業は「著者」とならないことになる。そして企業が企画した出版では、医師に掲載版の最終権限を委ねることが習わしとして広く行われている。ICMJEガイドラインは改訂されねばならない。
わたしは、臨床試験の性格が企業試験であることを明確にするとともに、企業や医学ライターないし医学コミュニケーション会社の関与が読者にとって視覚的に明確になることを重視して次の推奨を行う。
(1) 企業と医学ライターが著者として適切な場合はいつも、個々の著者に並べて記載する。
(2) この出版によってサポートされる会社と特定の医薬品名は著者記載のすぐ下に明記する。
この推奨を充たしている論文記載の例を図に示す [引用者註、下記の※4の文献をクリックして4頁のFigure2 をご覧ください]
著者自身の利益相反の開示: 著者は15年以上にわたって、収入の一部を製薬企業に依存している。仕事の内容は(専門分野について助言をしたり、相談に乗ったりする)コンサルタント業務の提供と自由契約による文書作成サービスである。直接製薬企業と協同することもあれば、よりしばしば医学コミュニケ―ション企業と協同している。最近執務時間の約25%は企業に関連する仕事であり、収入の約50%は企業から得ている。残りの執務時間はがん研究のためのアカデミックな機関であるフランスのARCAD基金と関連した独立コンサルタントとしての仕事に費やしている。 (T)
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