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メルクのエゼチミブ(日本商品名: ゼチーア)が欧州で保険償還打ち切りのおそれに直面

2011-09-27

(キーワード:エゼミチブ、ゼチーア、メルク、MSD、コレステロール低下剤)

 エゼチミブ(日本商品名: ゼチーア)に関するスキャンダルは2008年4月に当会議の注目情報でも取り上げている(※1)。

 エゼチニブは新規作用機序のユニークなコレステロール低下剤である。しかし,スタチン剤への上乗せ効果を期待した臨床試験(試験名ENHANCE)で、コレステロールは確かに強力に下げたが、心血管イベント抑制や動脈硬化の抑制の上乗せ効果は認められなかった。さらに、期待した結果が得られなかった試験結果の発表が意図的に遅らされ、その間に売り上げを大きく伸ばしたのではないかとニューヨーク州の検事総長が問題にしていることなどを紹介した。

 米国では、その後一時的に処方数が減ったものの、このような情報隠しが問題になった薬剤にもかかわらず、2010年度14億ドルを売り上げるブロックバスター(単品で巨額の売上を上げる商品)となっている。日本でもスタチン剤と併用すると強力にコレステロールを下げる薬剤と宣伝され、2010年度に204億円(前年度比37.8%増)を売り上げている。

 スタチン剤のスーパーブロックバスターであるリピトールの後発薬が2012年に承認される欧州で、コレステロール低下剤の先発品(ブランド薬)として優位な立場にあるエゼチニブが、欧州において保険償還打ち切りのおそれに直面していることをピンクシート誌2011年5月9日号が伝えている。以下はその要約である。

 メルク(日本ではMSD)のコレステロール低下剤エゼチミブは5月31日までに説得力ある説明を提供できないとドイツで保険償還打ち切りとなるおそれがある。

 英国でもNICE(国営医療技術評価機構)が今夏、評価の見直しを行う。

 ドイツでは、IQWiG(保健衛生制度における質と経済性に関する研究所)が、エゼチミブは単独でも併用でもエビデンスが乏しいとして否定的評価を行った。

 エゼチミブはすでに2008年のENHANCE試験でコレステロールは下げるが、プラーク形成を抑えないことが示されてから保険償還での立場は苦しいものとなっていた。その1年後のARBITER6-HALTS試験では、アボットのナイアスパン(ナイアシンの拡大放出剤)の方が、プラーク形成抑制でも安全性でも優れていた。

 エゼミチブのこのような不都合なデータに対するメルクの販売戦略は、これまでの試験の欠点を強調することや、エゼミチブのニッチなベネフィットを宣伝すること、また、IMPROVE-IT試験(1万8千人を対象にシンバスタチンとの併用とシンバスタチン単独を比較する進行中の臨床試験、2013年に発表予定)を非常に高く賞賛することであった。

 すでに、この薬剤は米国で2010年に14億ドル売り上げるブロックバスターである。しかし、この販売戦略はすでに終了しているのかもしれない。実際、欧州の医療評価機関は不都合なエゼミチブの遅い評価を確認するよりも、2012年にはほとんどの西ヨーロッパで販売される予定であるリピトール(アトルバスタチン)の後発薬が発売されるという衝撃を先に確認することになる。

 リピトールの後発薬がスタチン市場に出回った後、スタチン単独よりも優位であることを示すことができるデータをメルクが得られるのは2年先である。しかしその時までに、エゼミチブは、新しい情報を持つ市場で唯一のブランド製品となっているのかもしれないのである。エゼミチブの保険償還打ち切りは欧州の医療評価機関にとって大きな挑戦となるであろう。


 コレステロールはスタチン単独よりもエゼチニブを併用した方が強力に低下するが、動脈硬化の進展には影響しないということは、エゼチニブの有効性の問題というよりも、コレステロールを単純に下げることが必ずしも動脈硬化の治療には結びつかないということではないだろうか。IMPROVE-IT試験でその疑問に対する答えが出るのを期待する。

 なお,MSDは,社内調査の結果,「コレステロールに関するアドバイザリーパネル」で,高脂血症治療薬「ゼチーア」に関するアドバイスを得るため,2009年1月から2010年9月にアドバイザリーパネルを実施し,勤務医対象パネルの参加者延べ2106人に1人当たり7万円,開業医対象パネルの参加者延べ1162人に1人当たり3万円を渡したことを認めている(※2)。
(G.M)