タミフルとせん妄・意識障害に有意な関連:薬剤疫学研究の結果から
2011-06-23
(キーワード:タミフル、せん妄、意識障害、薬剤疫学)
日本薬剤疫学会の機関誌「薬剤疫学」2010年12月号に、「インフルエンザに伴う随伴症状の発現状況に関する調査研究」(横田班)のメンバーで統計解析を担当した藤田利治氏を筆頭に、横田俊平氏も含む計7人が名を連ねる注目すべき原著論文が掲載されている。
タミフル(一般名リン酸オセルタミビル)と異常行動等の精神・神経症状との関係については、タミフル発売開始3年後の2004年6月に添付文書の「使用上の注意」に「意識障害、異常行動、せん妄、幻覚、妄想、痙攣等」の精神・神経症状が「重大な副作用」として記載されたものの、2005年度に厚生労働省に設けられた上記横田班の同年度報告書※1では「多重解析の結果、タミフルと異常行動、けいれん、熱性けいれん、意識障害出現の関連には明らかな有意性はなかったが、明確な結論を導くためには今後の検討が必要である。」と記された。この横田班については、2007年3月にいわゆる「利益相反」が問題化し、2007年8月からは廣田良夫氏を班長とする「廣田班」が発足したが、廣田班の報告※2※3も、タミフル服用と異常行動・異常言動の間に「有意な正の関連を認めるには至らなかった」と記している。この間、2007年3月には、10代の患者がタミフル服用後相次いで転落するなどの事態を受け、10代への処方を原則禁止する「緊急安全性情報」が出され、この措置は現在も継続されている。
今回掲載された研究は、2006/2007年シーズンにインフルエンザに罹患した18歳未満の患者で調査できた9,389人を対象に、精神神経症状(せん妄、意識障害、熱性けいれん)と使用薬剤(アセトアミノフェン、タミフル)との関連について解析した「最初の薬剤疫学研究」である。
注目すべき点の1つは,タミフルとせん妄・意識障害との関連がデータで示されていることである。解析の結果、例えば、タミフル服用者は、非服用者に比較し、せん妄が約1.5倍、意識障害が約1.8倍多くなっているなどのデータが示され、「考察」においては、「せん妄として評価した異常行動の特徴は、岡部らの報告と整合するものとなっている」ことや、「抗インフルエンザ薬に対する当局の規制が『10歳以上の未成年』とされているが、15歳以上での発生率はむしろ低く、10歳未満で事故につながりかねない異常行動の発生率が高い可能性があることは留意する必要がある」等の指摘がされていることは重要である。そして、論文の結論は、「得られた暫定成績は、オセルタミビルとせん妄及び意識障害の関連を疑わせるものであった。今後、治療薬剤と異常行動との関連を検証する薬剤疫学研究の実施が待たれるところである」として、分析対象になったデータのしかるべき手続きを経た後のオンサイト利用が可能であることも記されている。
もう1つ,注目すべき点は,この研究が、前記「廣田班」により2009年6月16日に最終報告がされた調査データと同じデータを用いて解析し、廣田班とは異なる結論を得ていること、通常学会誌には論文のみが掲載されるが、本論文の後には、「本研究の着手に至る状況から報告までの経緯について」を藤田氏が記した文章が「附録」として掲載され、学術論文の直後にそうした文章を「附録」として載せるのは「いささか異例」だが、そうした内容を「附録」として掲載することの理由等を記した学会誌編集委員会の解説も記されていること、そして、筆頭著者の藤田氏は、病と闘いながらこの論文を執筆され、掲載決定から約1ヵ月後の2011年2月に58歳で逝去されたが、本論文が「文字通り自らの命を削って完成させた論文」であることの紹介をも含む学会理事長久保田潔氏の追悼文が掲載されていること、等のことからである。藤田氏のご冥福を心からお祈りする。 (KK)
出典 藤田利治、藤井陽介、渡辺好宏、他「インフルエンザ罹患後の精神神経症状と治療薬剤との関連についての薬剤疫学研究」薬剤疫学、15(2)73−92、2010.
※2 厚生労働省科学研究費補助金,医薬品・医療機器レギュラトリーサイエンス総合研究事業,ワクチンの有効性向上のためのエビデンス及び方策に関する研究,平成19・20年度分担研究報告書(研究分担者:廣田良夫).インフルエンザに伴う随伴症状の発現状況に関する調査研究.2009.