ドイツの薬事法規改正で製薬企業は新薬発売12か月以内に価値の証明が必要に
2011-05-20
(キーワード: 保険償還の継続・中止、ドイツ、医薬品市場新秩序法AMNOG、価値の証明)
日本では避妊薬や「バイアグラ」などごく一部の薬剤を例外として、製造販売承認された医療用医薬品はすべて薬価基準に収載され、公的保険医療の対象となる。しかし海外では、医療費財政の緊迫化などのため、医薬品をかけた費用と得られるベネフィット(利益)の関係(費用対効果)に注目して評価し、限られた予算のなかで必要な医薬品を効率的に国民に供給しようとする動きが強まっている。
ドイツにおける最近の動きをピンクシート誌2010年11月8日号が伝えているので紹介する。以下は記事の要旨である。
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ドイツの医薬品市場新秩序法(AMNOG)の改正で、製薬企業は発売12か月以内に新薬の価値 (Value)のエビデンス(証拠)を求められ、提出がないと保険償還リストから削除される。価値は既存の療法に付加する有効性で評価される。当初の改正案では、(保険償還の可否について決定し保健省にその承認を求める役割の)連邦合同委員会(G-BA)自身が、新薬について既存の療法に有効性を付加するというエビデンスを集めることになっていた。しかし、確定した新法ではG-BAが期限を定めて企業にエビデンスの提出を求める。なお今回の改正がされるまでは、すべての新薬が自動的に有効性分析の対象となる訳ではなく、またいつまでにという期限も定められていなかった。
ドイツの製薬会社は、英国と同様に新薬の自由価格を享受してきた。但し、それもG-BAが保険償還に値するかどうか評価するまでの限られた期間のことになる。企業に提示される新価格は、(保険償還の上限を定める)参照価格制度に基づいて、法定の健康保険基金と一緒に定められる。従来のものに比し付加メリットのない医薬品は、限られた範囲で企業が健康保険基金と交渉できる余地は残しているものの、固定された上限以下の価格となる。
新法では、G-BAは企業が新薬の価値を証明するエビデンスを提出しなければならない期限を定める。企業が期限内にエビデンスを提出し、G-BAが付加された有効性を認めれば、その医薬品は引き続き健康保険基金によって保険償還される。自由価格の設定は発売後1年間に限られる。 それ以降の価格はG-BA・健康保険基金・製薬企業が協議して決める。
しかし、もしエビデンスが提出されないなら、G-BAは保険償還リストからその医薬品を完全に除去する権限をもっている。
今回の変化を歓迎しながらも、G-BAは全く満足しているというわけでない。G-BAは既存品に対する「有効性」に焦点をあてるのでなく、「ベネフィット」(利益)の付加に焦点をあてるべきだと主張してきたからだ。一方、製薬企業はエビデンスをG-BAが探すのではなく、製薬企業に提出が求められたことについて、その方が有効性のエビデンスの組み立てを製薬企業ができるからいいかもしれないと考えているようだ。
ドイツのG-BA(連邦合同委員会)は、新薬が保険償還に値するかの評価を行い、保険償還リストへの収載を決定し保健省の承認を得る機関である。ドイツには医薬品の経済的評価(費用対効果)を行う政府系の研究所として、保健衛生制度における質と経済性に関する研究所(IQWIG)が別にあり、G-BAは自身で経済評価を行うか、または評価をIQWIGに依頼する。保険償還リスト収載の決定はG-BAが行い、保健省の承認を得る。今回の医薬品市場新秩序法(AMNOG)は、そうした仕組みを強化したものである。
ドイツは医薬品の自由価格制をとっている国としても知られてきた。2010年7月保健省は自由価格制の廃止を提言したが、今回の医薬品市場新秩序法(AMNOG)改正では、ひとまず承認段階で一定の有効性を認めた医薬品は、1年間は自由価格を認め、あとは特別扱いをせず、G-BA・健康保険基金・製薬企業が協議して決めることで落ち着いたようだ。ただ、記事にあるように経済的評価を明確に示す付加ベネフィット(利益)でなく、付加有効性のエビデンスとなっていることが問題点と考えられる。 (T)
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