FDAが臨床利益を証明する市販後臨床試験の宿題が達成されていない品目に承認取り消しを提案
2010-10-25
(キーワード: FDA、承認取り消し提案、「迅速承認」剤、承認条件未達成、ミドドリン)
FDAは1992年、重篤で命を脅かす疾患では市販後に真のエンドポイントでの臨床試験で臨床利益を証明することを条件として、代替エンドポイントでの成績で販売を承認するなどの「迅速承認」制度を設けた。迅速承認された品目は1992年から2008年11月までに159品目に達し、うち90品目については市販後臨床試験でのエビデンスの証明が求められている。
しかし、一度販売承認が得られると、承認条件となった試験の実施や課題のエビデンス証明の達成などのフォローがあいまいになっていると問題になっていた。2009年10月にも、GAO(政府説明責任局、議会の要請で活動)は、条件が達成されていない製品についてFDAが厳しく対処していないと批判した(※1)。
2010年8月16日、FDAは臨床利益(生存期間の改善ないし疾病の重症度の改善)を証明する市販後臨床試験が行われていないとして、低血圧治療剤ミドドリンの先発・後発企業に承認取り消しを提案した。このような提案を正式に行うのはミドドリンが最初のケースである。以下はFDAのニュースリリース(※2)の要旨である。
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米国FDAは、要求された薬剤の臨床利益を実証する市販後臨床試験がなされなかったため、起立性低血圧の治療に用いられてきたミドドリン塩酸塩の承認取り消しを、2010年8月16日に提案した。現在ミドドリンを服用している患者は服用を中止せず、代替治療について医療専門家に相談していただきたい。
FDAは企業に薬剤の臨床利益を示すデータを追加して提出するよう継続して要求してきた。しかし、追加の提出がなされないので承認の取り消しの手段をとることにした。FDAが迅速承認の規制のもとで承認した薬剤に承認取り消しを提案するのは、これが初めてのことである。
迅速承認のもとで、製薬企業は重篤または命を脅かす疾患・状態を治療する薬剤の販売承認を代替エンドポイントを用いた成績で得ることができる。代替エンドポイントは、生存期間の延長や疾病の重症度を減じるという患者にとっての真の臨床利益につながると考えられている、血圧への作用等の臨床マーカーである。
このプログラムのもとで承認を得た企業は、承認後に臨床利益を実証する試験の実施を要求される。これが達成されなかったり、また試験の実施を怠ったりした場合にはFDAは手続きに添って承認取り消しができる。
FDAのデータベースによれば、2009年に先発・後発のミドドリンを処方された国内患者は約10万人である。これらの患者が継続してミドドリンを服用することもできるよう、FDAは企業とともに拡大プログラムを用意する。拡大プログラムは、重篤で命を脅かす疾患でその患者に代替治療選択肢がない場合に、臨床試験以外で治療に用いることを容認するシステムである。
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米国では2010年6月22日、同じく迅速承認のもとで承認された急性骨髄性白血病治療剤ゲムツズマブオゾガマイシン(遺伝子組み換え)(マイロターグ)について、ファイザー社が承認条件となった試験で有効性を示せず、安全性が危惧される所見も得られたことで、2010年10月15日付けで、販売中止と自主的な承認取り下げを行うと発表されており(※3)、迅速承認剤の問題が脚光を浴びている。
日本においても、抗がん剤などが同様に市販後に臨床利益を確認することを承認条件として販売承認されている。しかし、それらをフォローするシステムは確立されていず、ゲフィニチブ(イレッサ)のように臨床利益の実証試験に失敗した場合の扱いについても明確でない。承認条件で指示された試験のフォロー状況の情報公開、条件を達成できなかった場合の扱いなど、きちんと整備する必要がある。
ここでFDAが市場撤去・承認取り消しを提案した低血圧治療剤ミドドリンであるが、その後の経過は流動的である。ミドドリンの先発企業Shire社は2010年8月17日、9月30日付けで米国市場からの撤退を発表した。しかし、ミドドリンを使用中の患者と医療専門家から存続を望む声が多数FDAに寄せられ、FDAは2010年9月10日ホームページにミドドリン・アップデート(情報更新)を発表した(※4)。FDAはミドドリンについて1)医療における有効性について質の高いデータを得ること、2)この過程で患者の薬剤へのアクセスを維持すること、の2つの目標を確認し、Shire社が要請した公聴会を開催してこの問題について検討することに合意した。
なお、日本ではミドドリンはメトリジン錠、メトリジンD錠(口腔内崩壊錠)として販売されており、再審査を終了している。米国のような患者の利益を実証する試験の実施は承認の当初から求められていない。
(T)
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