ランダム化比較試験の結果は論文でいかに歪めて伝えられるか
2010-10-25
(キーワード:ランダム化比較試験、臨床試験結果のバイアス、spin、主要評価項目)
当会議では、臨床試験の様々な問題(登録制、結果の公開、営利的資金による結果のバイアスなど)について注目情報等で取り上げてきている(※1、※2、※3、※4)。今回取り上げた注目情報は、臨床試験が論文化された場合に、その内容がいかに歪められているかという問題である。医学論文の臨床試験結果について、抄録や考察だけを読むと臨床試験の真の結果を間違って解釈してしまうことはしばしば経験する。この研究は医学論文として公表された臨床試験結果の解釈が意図的に歪められていることを定量的に明らかにしたものである。著者達は独自の分類法を用いて”spin”(※5)の有無について解析した。著者達は”spin”を「動機が何であれ、主要評価項目で統計的に有意な違いがなかったにもかかわらず有益性を強調したり、有意差が無いことから読者の注意を逸らさせる特殊な報告戦略」と定義している。以下はJAMA誌(2010年5月26日号 303巻2058ページ)の要約である
................................................................
著者達は2006年12月にPubMedに載ったすべてのランダム化比較試験について検討した。616の公表されたランダム化比較試験のうち主要評価項目が明確な並行群間比較ランダム化比較試験は205論文で、そのうち、主要評価項目が統計学的に有意でないと評価した72論文を選択した。72論文の約半数が薬物治療の評価で、約3分の1が営利的資金によるもの、27論文は資金について述べられていなかった。spinは、論文のタイトルで18.0%、抄録の結果(results)で37.5%、抄録の結論(conclusion)で58.3%に認められ、結論の23.6%では治療効果のみ強調されていた。そして本文の結果のところで29.2%、ディスカッションで43.1%、結果を記した部分で50.0%のspinが認められた。40%以上の論文で少なくとも2つ以上のセクションにspinが認められた。spinのレベルが「高度」(不確実性の記述が無い、さらなる試験の推奨が無い、主要評価項目に統計的有意差が無いことの確認がない、臨床治療に使用することを推奨している)であると認められたものは、抄録の結果で33.3%、本文の結果で26.4%であった。spinの多くみられるタイプは、「サブグループまたは副次評価項目の結果での誇張」、「対照群との比較ではなく介入群のみの改善の強調」、「有意で無い差を同等の治療効果とする不適切な解釈」などであった。著者たちは特に注意すべきことととして、「副次評価項目の結果またはサブグループの解析を行っている場合」や「介入群内での効果に基づいて結論を出しているとき」、「違いが少ないことを同等性の証明と不適切に解釈している場合」を指摘している。
............................................................... 製薬産業がスポンサーとなった臨床試験のバイアスが指摘されている(※6)が、spinと製薬企業からの資金提供の関連を調べた追加の研究に期待したい。 (G.M)
※5 spinは「回転する」という意味だが、「情報を都合のいいように解釈して流す」という意味がある。これの語源はスポーツのクリケットから来ていて、投手が打者を打ち取るのにボールに回転をかける(スピンボール)ことからこの意味になったと言われている。政治家などが自分に都合が良いように情報を操作することをspinと言う。spinを多用するのは政治家だけではないようである。