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悪しき医療 - 2型糖尿病

2010-04-27

キーワード:2型糖尿病、長期合併症、多剤処方、polypharmacy)

 英国医学雑誌(BMJ)の「Views and Reviews」のコラム“最前線の現場から(From frontline)”を担当している英国グラスゴーの内科医Des Spence 氏は、時に辛口で、時にはユーモアをこめて薬と医療と社会について批評する。Bad Medicineシリーズの一つ「悪しき医療 - 2型糖尿病」を以下に紹介する(2010年3月3日号掲載)。
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 2型糖尿病は“点滅している時限爆弾”である。その数は英国男性の6%におよび、“まだ100万人が未診療”だと内科医は叱責を受けている。糖尿病の研究は、HbA1c、血圧そしてコレステロールの厳密なコントロールを推奨し、“低いほどよし”と念仏のように唱えている。人々は多剤を処方されることになり(polypharmacy)、血糖コントロールに3剤、血圧に3剤、コレステロールに2剤、加えてアスピリン、最後はインスリンで、今やテストステロンまで処方される。多剤処方は、2型糖尿病治療の国の方針で、これが強要されているが、多剤処方はよい治療とは言えない。長期合併症との関連性や多剤間の相互作用の研究は見当たらない。新薬の売り込みで、さらに未知の副作用にさらされる。患者を見つけ出し治療する本来の目的は、心血管リスクと末梢血管障害を予防するためである。
 糖尿病の治療方針はまったく薬に支配されている。英国糖尿病学会は大手製薬企業をスポンサーにつけ、NHS(英国ヘルスサービス)の顧問医師は糖尿病教育のために企業から“潤滑油”の提供を受けている。2型糖尿病は、患者の多さと生涯にわたる治療の必要性からして、企業にとってまさに掘り当てられた金鉱そのもの、はたまた金のガチョウである。
 数値目標の教化は、出来るだけ低い数値にしようと人をかりたてる。最近の報告では、HbA1cについてむしろ低い方が死亡率が増加しており9%を超えると再び増加するという傾向を示している(訳注1)。また別の報告では、長期の死亡率のコホート研究で心血管リスクによる糖尿病患者の死亡率は、最近の調査(1995-7年)の方が、その10年前の調査(1984-6年)にくらべ半減している。合併症という“時限爆弾”の疫学研究の実際の姿は変わりつつあるのだろうか? もしそうなら、現状の数値による脅迫は許されるのだろうか?“糖尿病予備軍”や“耐糖異常”といった言葉で、過剰診療を受けていることになる。
 2型糖尿病の医療は、医師を一つの病態モデルに安住させてしまっている故に、まったく悪しき医療である。それは、肥満の問題に取り組むという社会的な方針を、混乱を生ずるものとして遠ざけてしまっている。医師は製薬企業の代弁者となるのではなく、健康の擁護者となるべきである。
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著者は以前のコラムで、診断や治療にも洋服のようにファションがあると、皮肉をこめて書いている。新規の2型糖尿病治療薬が次々と出ているが、これが「ファッション」となる前に、生活習慣(食事と運動)改善がファッションとして、医師と患者に定着してほしいものである。   (ST)

訳注1)日本のHbA1c基準値は、4.3 - 5.8%。
この部分は、Lancet 2010;375:481-9 の引用(※1)。

訳注2)この部分は、BMJ 2008;337:236の引用 (※2)。
ノルウエイの住民のコホート研究で、一回目の1985年-7年には(74914人)、二回目の1996-8年には(64824人)について調査。糖尿病とそうでない成人について、心血管リスクによる死亡を調べた。両者とも心血管リスクのよる死亡率は10年後には半減している。ただし、糖尿病患者の方が、そうでない人に比べて死亡率が2倍以上高いという傾向は10年後も続いていた。