FDAの添付文書は重要な情報を医療専門家に伝えていない
2010-02-05
（キーワード；臨床医に必要な情報、審査報告書、添付文書、記載されないデータ）
ニューイングランド医学雑誌2009年10月29日号（※１）に、ＦＤＡが、承認審査時に得ている多くの情報を、添付文書やまたこれを補完する医学雑誌の記事にも反映させられず、臨床医に重要な情報がまったく伝えられていないことを批判した記事が紹介された。その内容はニューヨークタイムズ2009年11月3日電子版（※２）でも報じられている。記事は３つの事実を挙げて問題を指摘している。以下はニューイングランド医学雑誌記事の要約である。
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臨床医が薬を処方する際に必要な情報を伝える最も直接的な方法は、添付文書を通してである。添付文書に効果が大げさに書かれたり害が過小化されないように、FDAまたは第三者機関が書くという方法があるが、FDAは製薬企業が作成したものを審議し承認するという方法をとっている。
承認申請時に提出される前臨床試験の結果と２つ以上の第３相試験の結果を、FDAの審査官は１年という長い期間をかけ、臨床、疫学、統計学、薬学の専門的立場から評価する。その承認審査情報（以下審査情報）には承認決定にいたる経緯が記録されておりFDAホームページに掲示される。あいにく審査情報は長くて読みにくいものだが、審査官達が、薬の益が害を上回るかどうかをいかに決めかねたのか、その経緯が興味深く記述されている。それなのに、そのFDA審査時の大事な情報が承認時添付文書には書かれていない事例がいまだ多数あるのである。
１つめの事例は、有害性に関するデータが抜け落ちている例である。 ゾメタ（ゾレドロン酸；ノバルティス）は、悪性疾患患者における高カルシウム血症に対して2001年に承認された。287人の癌患者に対しゾメタ4mg、8mg、アレディア（パミドロン酸；ノバルティス）の３群で比較試験を行った結果、ゾメタ8mgは4mgと比べ血中カルシウム濃度の低下効果が大きくないうえ腎毒性が大きかった。しかし添付文書には8mgではなく4mg使用時の腎毒性発現数などのデータが記載されている。
さらに審査報告書には、8mg群は死亡が高頻度であったことが記されている（P=0.03）が、このことは添付文書への記載も、論文発表もされていない。そして難治例に8mgの使用が推奨された結果、2008年には「腎毒性により腎障害が強く現れることがあり、4mgを超えて使用しないこと」という警告が記載される事態となったのである。死亡率のデータはいまだに記載されていない。
２つめの事例は有効性（efficacy）に関するデータが記載されていない例である。ルネスタ（エスゾピクロン；セプラコール）は2004年に慢性の不眠症に承認された。添付文書に有効性を示すデータはなく、あるのはプラセボ（偽薬）よりも優れていたという記述のみである。しかし審査報告書を見ると、大規模な第３相試験で、ルネスタ投与群がプラセボ群に比べて、入眠時間は平均15分早く、睡眠持続時間は37分長かったが、翌日の覚醒や機能面で臨床的に意味のある改善は得られなかったと記載されている。
３つめの例は、薬剤の最終的な有用性（benefit）の判定が不確実であった場合の例である。FDAの承認とは、薬剤がよく効くことを意味しているわけではなく、有用性（benefit）が害を上回るとみなしたという意味に過ぎない。有用性（benefit）が小さいが重大な害も認められていない場合、試験の質に疑問があるときなどの判断は難しいが、承認が確信的でない理由やその事実さえも添付文書には記されない。臨床医は審査官が熱烈に推奨する薬剤と懐疑的な薬剤とを見分けることができないのである。
2005年に慢性不眠に承認されたロゼレム（ラメルテオン；米国武田）がその例で、添付文書に有効性（efficacy）のデータはない。審査報告書には、第３相試験（睡眠試験、外来患者への試験）結果ロゼレムの有用性（benefit）がほとんど認められず、医学的審査チームのリーダーによる付記として臨床的有用性（benefit）の判断に紛糾したことが強調されている。付記によると、臨床的に意味のある治療効果がわずかしかない場合に製造承認することはまずないが、ロゼレムのケースは症候性副作用や高プロラクチン血症の頻度など安全性の特徴に関するいくつかの文献があったことが唯一の理由だったというのである。承認決定がぎりぎりの判定であったという事実は添付文書には書かれていない。
FDAは添付文書の問題を既に認識し改善に着手している。2006年に添付文書の様式が改訂され、重要な指示事項と警告を際立たせるためハイライトが取り入れられた。試験結果の記載方法、有効性データの重要性を強調するガイダンスも発表された。承認審査概要の新しいガイダンスも準備されている。しかし、FDAがどのように試みるにしても、必要なのは医薬品情報を臨床医に伝えるより良い方法である。われわれが必要とするのは、すでに判明した事実をいかに良く臨床医たちに知らせるかなのである。
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ゾメタは日本でも使用されている（4mgのみ）。日本の添付文書には15分以上かけて投与することと、脱水症状是正のため補液治療を行うことが警告として記載されているが用量に関しての警告はない。「外国において急性腎不全が現れたとの報告がある」旨は記載されているが、副作用欄の「外国での臨床試験結果」には、記事の指摘どおり4mg使用時の発現数が記載されているのみである。そして、エスゾピクロンはエーザイが2007年にセプラコール社と契約し国内での開発を進めており（現在第�形蟷邯魁法▲薀襯瓮謄�ンは武田薬品より「ロゼレム8mg」として承認申請されており、この1月29日に薬食審を通過したことが報じられている。
日本の添付文書は米国よりもさらに不十分であり、当会議でも個別薬剤の検討において、たびたび問題として指摘しそのつど改善要望を行ってきた（※３、※４）。
臨床医が処方に際して必要な情報が添付文書から得られることは、薬剤を安全に適切に使用する基礎的条件であり、今後も実質的な改善を求めていく必要がある。 （N.K）
