子ども用の咳止めと風邪薬、効果に根拠無く副作用からも推奨できず
2009-11-18
(キーワード: 子ども用の咳止めと風邪薬、有効性・安全性、オーストラリア)
オーストラリアの医師・薬剤師を対象とした医薬情報誌「オーストラリアン・プレスクライバー」2009年10月号は論説(※1)で、咳止めと風邪薬は2歳以下では避け、また子どもの年齢如何にかかわらず推奨しないよう、医師と薬剤師は共同して努めるよう呼び掛けている。
諸外国で子ども用の風邪薬・咳止めの使用について規制が進む中、日本の対応に注目が集まる。
以下は同誌論説の要旨である。
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オーストラリアでは2008年9月から2歳以下の子ども用の咳止めと風邪薬を市販薬から医師の処方が必要な医療用医薬品に配置換えされた。
効果の根拠が欠落していることと有害事象(副作用)の報告を受けてアメリカとイギリスにおいても同様の措置がとられている。
このことは医師や薬剤師が小児用の咳止めと風邪薬についての相談を受ける機会が増えることを意味している。
咳は気管支の刺激に対する反射的な反応であり、健康な呼吸器の機能を維持する為の正常なメカニズムによって起こる。
したがって、もっとも大切な最初のステップは正確な診断をして重篤な病因を除外することである。そして咳に対する対処は根底にある原因に向けられるべきだ。
咳や風邪の症状は子どもにとっても親にとっても深刻な悩みであり、そのことは数年にわたってずらりと並べられた市販薬が市場に出され続けてきたことに反映している。
もっとも多くの咳止めと風邪薬は鎮咳薬、抗ヒスタミン薬、去たん薬そして鼻粘膜充血除去薬の合剤であり、様々な副作用の報告がある。
そして、2歳未満の子どもの咳止めと風邪薬の有効性に基づくデータは非常にわずかなものであり、これらの薬を推奨する信頼できる根拠はない。
2歳以上の子どもたちに対する咳止めと風邪薬に対しても多数の臨床試験が行われてきた。2008年のコクランレビュー(註)では子どもの急性の咳に対して擬薬(プラセボ)よりも有効であることは示されなかった。
非薬物療法については咳や風邪に対してわずかではあるが資料がある。
様々な対処法の中で、理学療法は化膿性肺疾患以外の咳に、蜂蜜は咳のある子どもに対して有効であった。しかし、蜂蜜の摂取は幼児ボツリヌス病と関連があるので1歳未満の子どもには使用されるべきではない。
コクランレビューで分析された臨床試験の大多数では有害事象の報告はなかったが、子どもたちに対する咳や風邪の薬は故意でない過量の主な原因になり、幼児の突然死とも関連があることが良く知られている。
2008年10月米国食品医薬品庁(FDA)は2歳未満の幼児・小児の市販の咳と風邪の薬の使用に反対する勧告をし、そして2歳から11歳の子どもに対しては生命を脅かす可能性のある副作用の危険性の注意喚起を勧告した。イギリスにおいても6歳未満の子どもには咳と風邪の薬は使用されるべきでないと最近勧告された。
奨励できる咳と風邪の対処法としては、より重篤な根本的な原因を治療除去した後、両親には咳と風邪に対する対症療法に対し薬物によらない療法を提供すべきである。
最初の一歩は、症状と咳の原因とメカニズムを説明し、そして予測される症状の経過に基づいた現実的な情報を提供することだ。症状は一般的に自然に改善すると言うことで両親は安心し、医学的な再検討を続ける選択肢を持つことができる。
咳止めと風邪薬は2歳以下では避けねばならない。また子どもの年齢如何にかかわらず推奨するべきでない。医師と薬剤師は子ども用の咳止めと風邪薬の使用を勧めることを避ける為に共同して努めるべきである。
(註) コクランレビュー: 根拠に基づく医療(EBM)の実践のために、英国の医師コクランの呼びかけに応え、ランダム化比較臨床試験の結果を集めた体系的なレビューが世界中で進められている。
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注目情報では、子ども用の風邪・せき薬について、英国医薬品庁の取り組み(※2)、米国パブリックシティズンの見解(※3)を紹介してきた。オーストラリアでは、「オーストラリアン・プレスクライバー」誌のこの論説のあと、オーストラリア医薬品庁(TGA)が、2009年10月22日、OTC(一般用医薬品)の子ども用の風邪・せき薬は、薬剤師の管理のもとでの販売を必須とする方針を2009年12月18日期限でパブリックコメントにかけている(※4)。諸外国での厳しい規制が進む中、日本の厚生労働省の対応が問われている。 (OT)