営利目的の外部治験審査委員会の実態暴かれる
2009-08-28
(キーワード:倫理審査委員会、外部治験審査委員会)
米国においては、新薬や新医療機器が承認をうけるために必要な臨床試験は、まず倫理審査委員会(an ethical review board)の承認を得なければならず、アカデミック・メディカル・センターでなされる臨床試験は、施設内治験審査委員会(Institutional Review Boards :略称IRB)と呼ばれる倫理審査委員会の審査を受けることになる。
これに対し、アカデミック・メディカル・センターと関係しない民間の臨床試験実施会社による臨床試験は、上記の施設内治験審査委員会を利用することができないため、営利目的の外部治験審査委員会(Independent Review Boards :略称は同じくIRB)という全く新しい業態が誕生しており、その審査内容が問題視されている。
このような外部治験審査委員会の実態につき、パブリックシティズンニューズレター2009年6月号に掲載されているので紹介する。以下はその要旨である。
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アカデミック・メディカル・センターと関係しない民間の臨床試験実施会社によって行われる臨床試験は、アカデミック・メディカル・センターの施設内治験審査委員会を利用することができないため、営利目的の外部治験審査委員会というものが誕生するに至っている。外部治験審査委員会は、迅速な審査を約束し、その結果、当該医薬品がより早く市販されることによって、コストの節約をも約束している。
Coast IRBは、このような営利目的の外部治験審査委員会の1つであり、製薬企業や医療機器企業に向けて、迅速な審査を売り物にしていた。Coast IRBは、この迅速な審査により、審査が1日早まれば、400万ドルの節約になり、6日節約されたら2400万ドルの節約になるとうたっていたのである。
しかし、これは患者のためになるのか?今年、米国政府説明責任局(GAO)によるおとり調査で、同社の問題が判明した。GAOは、Coast IRBを含めた3つの外部治験審査委員会に対し、FDAの承認を得て販売している医療機器の審査のために虚偽の調査研究を提出した。しかし実際には、この医療機器はFDAの承認を得てはいなかった。他の2つの外部治験審査委員会は、この虚偽の機器を使用した臨床試験を承認しなかったが、Coast IRBはそれを承認した。このことにより、FDAは同社の能力に対する懸念を抱くようになった。
同社は、FDAの要請を受け、新規の申請処理及び新規の被験者登録を中止することを了承し、ほどなく同社は廃業に至った。利益のための倫理はもはやこれまでということだ。 (MG)