BMJ誌が「製薬企業と、医療専門家、患者との理想的な関係とはどうあるべきか?」を特集
2009-07-08
(キーワード:英国内科医師会(RCP) 製薬企業と医師 医学教育と製薬企業 マーケティング ヘルスケアの革新)
1 英国医学雑誌BMJ 2009年2月7日号は、英国内科医師会(RCP)が 2009年2月4日発表した「健康の革新:患者、医師、製薬会社とNHS」 との表題のレポート(以下RCPレポート)(※1)について特集しており、その内容を紹介する。
RCPレポートは、2007年9月に英国内科医師会が招集し(※2)、ランセットの編集者R.Horton医師が統括する作業班(医学界、NHS(国民医療サービス)、製薬企業、患者グループ)がまとめたもので、70ページ、42の勧告から成る。
2(1) BMJの<NEWS>欄では、レポートの内容を以下のように紹介している。
英国では、患者は情報隠しや、新薬への不平等なアクセスなどにより医療への信頼を無くしている。製薬企業と医療専門家が緊張を解きほぐさない限り、患者ケアは改善しない、NHSと製薬企業の関係は、危機的な損傷が放置されていると述べる。
その解決策として、個々の製薬会社と医学専門家との間の全ての教育的つながりは解消すべきであり、医師と医学生への贈答はやめるべきだと述べている。医学教育の新しい時代として、大学教育は公的資金により支払われるべきであり、加えて、英国製薬工業協会とそのメンバーは、医学教育に共同出資する基金を設立すべきであると述べる。そして、処方薬への臨床上の要求を満たし、英国の広範な医薬品戦略を生み出すために、新しい医学技術諮問グループの創設を提言している。
(2) BMJの論説では、このレポートは欠陥があり、勧告の正当性が弱く、理論的な拘束力が弱いと批判している。“患者のニーズに基づいて、安全で有効で安価な新薬を開発し、供給することを目的に、NHS、医科大学と製薬企業の関係性を促進する政策”を明らかにすべきであったと。
(3) BMJの巻頭言では、「(タンゴを踊るように)両方に責任がある。」と言う。そして、専門家が指揮を執る時であり、贈答・接待の拒否、研究・臨床協力の透明性、公明性の確保、ゲストオーサー、ゴーストオーサー、オピニオンリーダーの役割の拒否、情報と教育に自ら支払うこと、完全に透明で、患者や公衆にとって最高の利益とならなければ企業の援助を断ること。また、企業は、健康と経済への本当の貢献が認められるのであれば、先頭に立ち、方向性を変えなければならないと主張する。
3 また,BMJは、<ANALYSIS>「医師、患者と製薬企業:パートナー、友達、それとも敵?」欄で、RCPレポートについて5分野の有識者からの意見を紹介している。
(1) 大学研究者(H.Krumholz教授とJ.Ross教授)
企業、医師、大学人が倫理的な共同を促進し、新しい知識や薬の供給に働くことにより一般社会にとって良き提供者となるとして、企業、患者、医師双方の協力のための6つの基準を提案する。基準の内容は、消費者宣伝や販売促進活動の中止、医師は自らの教育の財政基盤を確立すること、企業に資金援助された臨床研究の可視化と治験審査、安全監視等の強制基準、外部調査委員会が生データの公表権限を持つこと等から成り、先進者はステップの多くを実践している。
(2) 企業トップ管理者(英国シェーリング・プラウG.Coutts氏)
製薬企業とNHS、医師、患者との間の責任ある関係を本来のものにすることにより、健康のアウトカムを改善し、健康の不平等を減少させる。それは患者への情報の供給を含むべきであるとする。医師と製薬企業との協力は実際的規律と英国法によって高度に規制されている。いかに協同課題に取り組むかにより、大躍進を生む可能性を持っている。
(3) 英国製薬工業協会(ABPI)のR.Tiner氏
英国の企業は政府とNHSとの協同に献身的であり、この協同は、金銭的価値と革新を生む。企業は医師に情報提供する正当な権利を持っており、規則や自己規制により管理されている。企業からの患者団体への資金援助は公開されなければならない。
(4) ワシントンDCの健康政策評論家S.Gottlieb氏
医学治療がますます個別化し複雑になる中で、消費者と医師は、企業とより接近することが必要となり、透明なガイドラインを確立する必要がある。企業はマーケティングではなく、誠実な科学的な仕事に基づき信頼を築き、科学の進歩、安全性モニター、健康教育の改善に焦点をあてるべきだ。
(5) 前NEJM誌編集長M.Angel氏
製薬企業は株主の利益に責任を負う自らの企業への投資家であり、患者に最善のケアーを提供する医療専門家の使命とは全く異なる。製薬企業と、医師、患者とは何ら結びつきはあるべきでない。教育と情報は保健専門家によって提供されるべきであり、医師も他の専門家も生涯教育に自ら支払うべきであり、同様に専門家組織は自らの会議や出版物に支払うべきである。
医師と同様に、製薬企業と患者との結びつきの目的は薬を売ることである。人々を治療できる病状にあると確信させることができれば、容易に薬を売ることができる。医師と患者の両者に、マーケティングが良い教育であるという誤った受け入れをやめさせる必要がある。
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2008年6月20日付の注目情報「医師よ、企業とはそういうもの」にて、RCPレポート作成のためのワーキンググループの発足と意見募集に関するBMJ記事を紹介した(※2)。そして、ワーキンググループの発足がEUにおけるDTCA(患者への直接広告)を可能にする法案提出に呼応しており、産官学一体化を推し進める一歩ではないかと指摘した。
RCPレポートが提言する、医学教育、生涯教育の企業からの自立、企業による贈答、寄付の中止等の内容や、BMJ編集者が指摘する、研究・臨床協力の透明性、公明性の確保、ゴーストオーサー、オピニオンリーダー等の役割の拒否等は、日本の現状に多くの課題を投げかけている。
しかし、企業と専門家、患者との関係に関して、患者の利益に貢献するための、互いの倫理的規範に基づいて協同する関係というものが成り立ち得るのか?
BMJ論説では勧告できていないと批判するが、M.Angel氏は、結びつきはあるべきでないと明言している。利益追求を目的とする製薬企業と、大学、医療専門家、患者は、互いに自立し、結びつきを持たない関係を出発点にして考えることで様々な問題が見えてくるのではないか。 (NM)
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