EU22か国がファーマ・パッケージ「患者への情報」に賛成でない
2009-06-23
(キーワード:処方せん薬、ファーマ・パッケージ、DTCA)
スクリップ電子版2009年5月15日は、欧州委員会が提案し準備を進めているファーマ・パッケージ「患者への情報」が多数の支持を得られていない状況を伝えている。
ファーマ・パッケージ(※1)は、「患者への情報」「ファーマコビジランス」「偽造薬品」の3つのシリーズで構成される。そのうち「患者への情報」は、販売促進情報ではない、質の高い情報を「専門家が認めた法にもとづく情報」として提供するというものである。
許可される情報としては、
○処方せん薬についての、有能な権威者により承認された、製品概要、添付文書、製品の患者向けリーフレットおよびこれらの情報を超えない範囲の情報を別の方法で表現したもの
○価格や参考関連物質などの情報、包装変更や副作用の警告などの情報、薬物治療関連情報、非臨床的研究、予防または治療の背景情報
○情報の普及のための意見交換チャネル
などの「確かな情報」であって、これらのすべては質の基準(客観的で偏りのない情報、科学的根拠に基づく情報、最新の情報、信頼のおける事実に基づき誤解のない情報など)を満たすものであることとしている。
スクリップは2008年12月11日号でもこの問題をとりあげ、この「患者への情報」シリーズは、製薬会社がインターネットや健康関連出版物を通じて処方せん薬の情報を、一般市民に提供するのを部分的に許容するものであると指摘したが、患者・市民への処方箋薬の直接広告(DTCA)に道を開くものである疑いはますます深まっている。以下は記事の要約である。
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EUではDTCA(患者・市民への処方せん薬の直接広告)が禁じられている。欧州委員会は、製薬企業の患者・市民に対するファーマ・パッケージ「患者への情報」による、直接の「情報提供」の解禁に乗り出している。このほどスペインで開催され欧州製薬団体連合会(EFPIA)の年会で役員が「EU加盟国27か国のうち22か国がファーマ・パッケージを支持していないので、前に進まない」と明かした。EFPIA会長であり、バイエルヘルスケアの最高経営責任者であるアーサー・ヒギンス氏は、27加盟国のうち大多数が「患者への情報」シリーズに賛成でなく大変失望していると語った。ヒギンス氏は、「我々はDTCAには関心がないが、この患者への情報シリーズがEUで禁止されているDTCAを裏口から招き入れることになるだろうとの疑念が依然とあり、患者への情報のことを言えば言うほどDTCAのことだとの確信を深める状況だ」と語る。
ファーマ・パッケージは、6月9日の評議委員会で論議されることになっているが、政治的一致はまだ見ていない。意見の不一致もあり、もっと注意して見る時間が必要であるとEU保健局長アンドローラ・バッシーロ氏はいう。デンマーク製薬団体連合会の役員も、ほとんどの消費者グループもこの提案に賛成でないので、提案を引っ込めざるをえないだろうと語る。スクリップ誌によると、このシリーズを後押ししている加盟国には英国やスウェーデンがある。
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「患者への情報」は、一般市民が処方せん用の薬剤やその取扱いについての信頼できる確かな情報を得ることで、積極的で自立した保健医療の利用者となり、間違った誘導や悪質な情報を受け取るリスクを減じるというのがねらいであるとされる。しかし、「製薬企業が、自社の処方せん薬についての、一般市民が利用することのできる情報を作ることができる」という内容を含んでいる。
結局は、製薬企業が出す情報に欧州委員会が「お墨付き」を与えることにすぎないであろう。むしろ欧州委員会が提案理由としている「質の悪い、誤解を生じる情報」の横行を規制することが優先されるべきではないだろうか。 (N)
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