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医学の専門家団体と企業の関係−利益相反管理の提言

2009-06-23

(キーワード:医学専門家集団,利益相反,治療ガイドライン,倫理指針,PMA)


 表題の提言は米国医師会誌(JAMA)に掲載されたものである(2009年4月1日号)。著者はIOM((米国医学研究所)の所長D.J.Rothmann氏を筆頭に,JAMA誌の編集長C.D.Deangelis氏ほか9名であるが,所属組織の代表としてではなく個人としての意見表明であると明記している(訳注1)。この提言は,同じ専門領域を持つ医師や研究者で作る学会や研究会などの専門家の団体(Professional Medical Association : PMA)に向けたものである。
 この提言とほぼ同時に,米国医学研究所 (IOM)からも利益相反管理に関する報告書が出されたが(※1),こちらは大学やセンターなど医学研究,教育また実務の現場など多方面にわたって個人と施設の両方へ企業資金の関与の制限を勧告したものである。
 JAMA誌の提言の概略を紹介する。
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 医学の専門家団体(PMA)は,最良の治療法を定義し,エビデンスに基づいた結果を推進する役目がある。PMAは学会や継続医学教育を行うが,PMAが持つ社会支援の立場は医師にとっても,市民にとっても非常に重みのあるものである。それにもかかわらず,この10年に明らかにされたのは,企業と医療者の経済的なつながりの圧倒的な強さにより生ずる利益相反の事実であった。指導的立場の医師をはじめ,政府やメディアは,これまでのPMAの行為が,科学の高潔さや患者の利益を最優先することをないがしろしてきたと感じており,抜本的な改革を要求している。
 PMAは企業からの寄付ゼロを目ざしていくべきである。高潔さを保つためには,犠牲を要するだろうが,この変革は社会にとって最上の利益となる。
 現状は,程度の差こそあれPMAの活動に企業資金が行き渡っており,すべてのPMAにかかわる問題である。多くのPMAは利益相反ガイドラインを作っているが,不十分である。そこで,一貫性と有効性のある利益相反管理のモデルを提案する。この提言の特徴は,PMAと企業の複雑にからまった関係を指摘していることである。

 この提言にあたっては,以下の5項目を基本的な前提とした。
(1)企業は医学の進歩に重要な寄与をしている。
(2)贈物の持つパワーが医師の治療決定にバイアスをかけることが,質的量的な研究で明らかである。
(3)教育はマーケティングと区別しなければならない。
(4)PMAに向けた利益相反ポリシーは,個人の企業とのつながりをあらかじめ考慮しなければならない。個人の企業とのつながり方はいろいろあるので,その特性,差異を反映すべきである。 
(5)PMAは,自分自身の任務に優先順位をつけそれに忠実に実行すべきである。企業の支援申し出によってそれらが変更されるとすれば,PMAは企業に売り渡されたことになる。

 そして,提言では,10項目について,PMAと企業との関係を明らかにし,利益相反を解消するための方法を提案している。そのうち,以下の2点を紹介する。

・一般予算の支援について
PMAは雑誌広告料と展示ホール料金を除いて,企業資金を無くす方向にいくべきだ。しかし,企業支援ゼロの目標をすぐに達成しようとすれば,PMAのサービスが破綻するのは目にみえているので,まず活動予算の25%以下にするなど具体的な削減目標を持つべきだ。提供された企業資金は中央にプールして各々のPMAが管理する方式にすべきだ。あるPMAの資金が,一つの企業だけによって資金をまかなってはならない。

・治療ガイドライン又は結果判定基準を作成する委員会
 治療ガイドライン作成や機器の性能,結果判定の基準を作成する作業は,明らかに企業の利害と関係するので,どのような状況下でも企業からの資金を受けてはならない。委員会メンバーの企業との関係を開示するだけでは十分ではない。研究支援や収入支援を含め利益相反のある人物は除くべきだ。“そんなに厳しい制限をすれば,最も優れた人物を排除しかねない”と言われるかもしれないが,最もよく登場する人物が,往々にして,最も優れた人物と混同されている。いかなる困難な課題も,原稿の段階で広く回覧しコメントを求め,最後に関連薬剤や機器に関して利益相反のない専門家にまかせれば,乗り切ることができる。
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 JAMA誌の著者はPMAの高潔さを保つためには犠牲をはらわなければならない」と述べているが,学会が企業の資金援助から抜け出す苦しみは,喫煙者がたばこを止めようとする時と似ているかもしれない。ニコチンの中毒からぬけ出すには身体的精神的な苦痛を伴うが,そうしなければ,喫煙者は発がんのリスクを背負うことになる。しかし,医学の高潔さと企業の利益相反は,喫煙とちがって社会が大きなリスクを背負う。米国では最近,企業側が資金の提供先を公開する動きがでてきている(※3)。しかし,残念ながら日本の製薬企業は,医学部などのへの資金提供について,情報公開に前向きなのは1割程度に過ぎない(読売新聞2009年6月3日)。 (ST) 


訳注1 9名の,所属あるいは専門分野は,各々以下である。
米国精神医学学会CEO,米国産科婦人科学会副代表,コロンビア大学医学部教授,コロンビア大学医学部研究員,米国医学専門家協会協議会元CEO,Josiah. Macy Jr基金元理事長,米国小児科学会元代表,米国心臓病学会元代表,米国内科医学会元代表