公共資金で既存薬と直接比較する米国の臨床研究協議会が本格稼働へ
2009-05-14
(キーワード: 公共資金での臨床研究、米国、従来薬との直接比較)
製薬企業は、従来薬との直接比較を避け、ブラセボとの比較臨床試験を行っている。しかし、社会にとって必要なのは新薬が従来薬と比較してどうなのかの情報である。そうした重要性を如実に示したのが、米国の公共資金で行われた高血圧治療剤の大規模直接比較試験ALLHAT(オールハット、JAMA誌論文2002年)であった。この試験で、長い実績をもち安価な降圧利尿剤が、現在においても最強の高血圧治療剤であることが示され、世界に大きな影響を与えた。
直接比較臨床試験の本格的推進が米国での課題となっていたが、このほど直接比較臨床試験を行う公共資金の活用のため、効果比較研究協議会(comparative effectiveness research council)が設立されたことを、Scrip誌 2009年3月27日号が伝えている。以下はその要旨である。
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最近の経済刺激法(Economic Stimulus Law)のもとで直接比較臨床試験に投入された11億ドル(約1100億円)を運用する連邦の臨床研究協議会における、医薬品規制官庁の代表として、FDA(食品医薬品庁)の生物製剤センター長のグッドマン医師が就任した。
協議会の委員15人には、国立衛生研究所(NIH)、医療研究品質局(AHRQ)の代表が含まれている。また、オバマ大統領のアドバイザー2人が含まれており、このことは新内閣のヘルスケア改革計画において、直接比較臨床試験が重視されていることを示している。一方共和党は、経済刺激法の直接比較臨床試験の条項が、ヘルスケアに国が過度に介入することを招く批判している。
公聴会が4月14日に開催される。保健福祉省(HHS)は、直接比較臨床試験に関する情報を透明化すると言明している。また、科学アカデミー医学研究所(IoM)が、直接比較試験での国レベルでの優先課題について報告書を6月30日に提出予定である。
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イタリアでは、1903年から製薬企業の販売促進費の5%が国に納入され、公共的に必要性の高い臨床試験の実施などに用いられている(※1)。スペインも2006年これに続き、製薬企業の販売量に応じた税金を集め、同様に用いている。英国でも公共性の強い資金での臨床試験が進められている。日本においても、保健衛生において重要性が高く、公共医療費支出にも大きな影響を与える臨床試験を、公共の資金で行う方向が必要ではないだろうか。 (T)
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