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「ノー」とはいえないNICEの苦悩

2009-02-09

[キーワード:NHS、NICE、費用対効果、医薬品経済評価]

 日本には医薬品の保険適用について費用対効果で判断する仕組みはないが、英国にはNHS(国民医療サービス)に用いる医薬品や医療技術の有効性、経済性を評価するNICE(英国国立医療技術評価機構)という独立機関がある。NICEは2008年8月7日、ベバシズマブ(アバスチン)、ソラフェニブ(ネクサバール)、スニチニブ(スーテント)、テムシロリムス(トリセル)の4つの腎癌治療剤が価格に見合う有効性がないとした。NICEは費用対効果の判断にクオリー(QALY)と呼ばれる指標を用いている。クオリーは「生活の質を考慮して調整した生存年」で、1人が健康な1年間を手に入れるのにかかる負担が1クオリーである。そして1クオリーの上限は2から3万ポンド(約260万から390万円)としている。これに対し、こうした評価システムは患者の薬に対するアクセスを阻害するという批判もあり、訴訟も起こされている。
 以下は、NEJM誌2008年11月6日号「ノーとはいえない NICEの苦労」(Saying No Isn't NICE)を要約したものである。
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 1999年に設立されたNICEは、高価な医薬品の扱いに苦しみ、保健衛生のために必要なことをしているとの評価の一方、冷血なお役所と言われたりもしている。創立以来所長を務めているローリンス医師は、「われわれは不親切でも残忍でもない。われわれはすべての人々を視野にいれた保健施策を行っているにすぎない」と述べている。
 NICEの予算は年50〜60億円、人員はパートも含め270人、協力している外部専門家が2000人いる。NICEの仕事が大きな抵抗を受けているのは「費用対効果の評価」を行っていることにある。NICEは、費用対効果の観点からNHSでの供給は1クオリーあたり350万円までが望ましいとしているが、実際には白血病治療でのイマチニブ(グリベック)で850万円を認めている。ローリング医師は、「大きな問題は、なぜ私達が1クオリーを2万から3万ポンド(約260万から390万円)にしたかである。この答えを私達に示す実証的研究は全くない。経済コミュニティが提供したいくつかの判断があっただけである」と述べている。
 近年は一般に非常に高価な薬剤が増えつつあり、対費用効果の評価はこれからの避けられない方向だが、他国はNICEの先進的な取り組みに果たして続くのか。
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 医療費の効率化(資源の有効利用)のために、医薬品の経済評価がどうあるべきかの議論は、今後日本でも活発に行われるべきであろう。  (GM)

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