米国医学生が 製薬企業の「サービス」に異議申し立て
2006-12-13
キーワード
[ 製薬企業、医師の行動様式、接待、ファーム..フリー、米国医学生連合]
英国のネイチャー.メディスン誌2006年10月号は、米国では製薬企業が学生をターゲットに医学部キャンパスにも贈り物攻勢をかけていることに関して「ニュース:米国医学生が 製薬企業の「サービス」に異議申し立て」として掲載している。ここで言う「サービス」は、製薬企業が医師に贈る物品や接待をはじめとするもろもろの供与をさす。何の見返りも期待せず企業が大盤振る舞いをしてくれるはずはないであろう。こういった供与について、長年にわたりニューイングランド医学雑誌の編集長を勤めたマーシャ.エンジェル氏は著書「The Truth about Drug Companies(2004)」(邦訳「ビッグ.ファーマ 製薬会社の真実」)で、製薬企業の言う教育活動という名目のその実態は宣伝や販売拡大などのマーケティング活動であるが、受ける医師たちも製薬企業の教育活動という言い方を信じているふりをしていると、指摘している。
こういった状況に対して米国の医科大学の学生達が異議を唱えはじめ、これに応じて大学当局も製薬企業から学生を守る方策をたてはじめている。以下に掲載記事を翻訳して紹介する。
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ワシントン大学三年のJ..ドナルドソンさんは、このところ製薬会社から無料でいくつかの品を提供された。郵便受けの中に入っていた数冊の教科書や医療センターでの昼食などである。製薬会社は2002年、医師への高額な食事接待や贈り物は削減する旨を示したガイドライン*を受け入れたが、しかしその一方で、医師のオフィスや医学生が学ぶ病院などに会社の製品を配り始めたのである。わずかな贈り物が、学生の行動を変えさせるかどうかは議論の余地があるところだが、これまでは医師に対してなされていたことである。ドナルドソンさん等は、贈り物は学生の高潔さをおびやかすものだと受け取っている。彼らは大学に対して5月、請願書を書き、1年生と2年生の半数以上の署名を得た。キャンパスから製薬会社代表を追い出し学生が贈り物を受領するのを禁止すること、講演者の費用の出所をすべて公開することを大学に要求したものである。大学副学長のトマス.ノリス氏は「学生は教育が製薬企業により偏向させられないように望んでおり、我々大学側は年度末までに学生と共に方針を決める作業を進めている」と語った。
2005年には医科大学126校のうち、学生を製薬企業からまもる方策を持っているのは10校にすぎなかったが、今年になり増えている。2月には、イエール大学医学部では、製薬会社からのすべての贈り物とキャンパス内での食事提供を禁止した。医学部長のロバート..アルパン氏は「良心的な大学であるなら、4年間は医学生を、贈り物を受け取る医師と接触させるべきではない。さもなければ、彼らはそのような行為を医者の行動様式と受け入れるようになってしまう」と述べた。シカゴにあるロザリンド.フランクリン大学精神科のフレデリック..シアレス教授は、医科大学8校の3年生826人を調査した報告で(JAMA294.2005)、学生はおよそ週一回は製薬会社と接触しており彼らは製薬企業の後援による活動は有意義なものと評価していると言い、「数百億ドルをかける企業の販売促進マシーンに、医者同様に学生ものせられやすい」と付け加えている。
米国医学生連合は、医師、研修医および医学生は、製薬企業から贈り物を受け取らないようにとのガイドラインを作成し、さらに2002年からは、製薬企業の影響について学生に教育する「Pharm..Free (ファーム..フリー)」**を立ち上げた。「ファーム..フリー」の代表でバーモント大生のジャスティン..サンダースさんは「医学生は“ファーム.フリー”という名前をみて、製薬企業から医師や学生にシャワーのようにふりそそぐ贈り物の意味するところをすばやく感知して、色めがねをかけさせられないようにしようと考える」と言う。
先の精神科教授シアレス氏は、「大学がこの問題を正式に表明すれば学生はもっと懐疑的になるだろうが、大きな壁は学生を指導する医者に、贈り物を受け取らないように納得させることであろう。医者が贈り物を受け取りそのことに疑問を抱かず、それを見た学生達もそうすることが自分達の役割だとみなしているかぎり、問題解決は難しい」と述べている。
(S)
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*訳註:米国研究製薬工業協会が2002年に出した「医療専門職との交際に関する綱領」をさすものと思われる。
**訳註:Pharmは製薬会社の略、Freeは解放という意味。したがって、「Pharm. Free」 は製薬会社の支配から抜け出す、あるいは製薬会社とは関係を持たないというような意味になる。
- 関連資料・リンク等
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