疾病啓発キャンペーンが健康人を病人に変える
2006-05-17
(キーワード: 疾病啓発広告・キャンペーン、病気作り(Disease Mongering)、医薬品の販促手段)
2006年4月、病気作り(Disease Mongering)をテーマとした研究者の国際会議が初めてオーストラリアで開催された(※1)。また、これにタイミングを合わせて、米国で発行されインターネットでも公開されているプロス・メディスン誌2006年4月号が11編の論文を掲載し、特集を組んだ(※2)。Disease Mongeringとは、「病気を売り歩く」という意味であり、ここでは「病気作り」と訳したが、製薬企業が医薬品という商品の売り上げを増すために、疾病啓発を名目として、新聞やテレビなどを通じ市民に対し直接働きかける「疾病啓発広告・キャンペーン」の問題点を掘り下げたものである。
英国医師会が発行するBMJ誌2006年4月15日号が、この病気作り(Disease Mongering)の国際会議と雑誌特集を記事にしているので紹介する。以下は要約である。
オーストラリアのニューキャッスルで開催された「病気作り(Disease
Mongering)」をテーマとする国際会議に参加した研究者グループは、診断
されていない疾病について市民が気づくのを助けるというメディアや広告の
キャンペーンは、実際には医薬品の新たな使用者を開拓する製薬企業にとっ
ての販促手段であると、指摘している。
この会議に時期を合わせてプロス・メディスン誌が特集を組んでいる。この
特集の客員編集者であるニューキャッスル大学のディビッド・ヘンリー氏と、
BMJ誌の寄稿者でジャーナリストのレイ・モニハン氏は、今回の会議の
オーガナイザー(組織者)でもある。彼らは、企業が出費した疾病啓発キャン
ペーンが、健康人を病人に変え、薬害の被害者になるリスクを負わせると述
べている。
ヘンリー医師は、この疾病啓発キャンペーンでは、製薬企業の販売促進部門、
ジャーナリスト、患者権利擁護団体による事実上の同盟関係が出来ていると
述べている。モニハン氏は、しはしば製薬企業から資金援助を受けている
患者権利擁護団体が、疾病を広げることに進んで協力するパートナーとなっ
ていると述べている。
プロス・メディスン誌では、「病気作り(Disease Mongering)」として、男性・
女性の性機能障害、ADHD(注意欠陥多動障害)、双極性障害、下肢静止不能症候
群(RLS)にスポットライトを当てている。
そのひとつに、2003年グラクソスミスクライン(GSK)が2003年に行った下肢静止
不能症候群(RLS)の疾病啓発キャンペーンがある。GSKは、ロピニロール(商品名
レクイップ)に関連し、RLSを広く存在しているが診断されていない疾患として、
大々的にキャンペーンした。著者たちは、33の新聞報道を分析したところ、ジャ
ーナリストたちが根拠に乏しい罹患率を無批判に受け入れ、薬物治療の有用性を
過大評価していることを見出した。オロシン医師は、「通常、健康関連記事はし
ばしば批判的精神を欠いており、RLSとロピニロールについてもそうであっても
驚くにはあたらない」と語った。
米国FDAは昨年、RKSの治療薬としてロピニロールを販売承認した。そして
RLSは今や米国市民にむけてのGSKの広告キャンペーンの対象となっている。
広告は市民の受診を増加させている。これらのキャンペーンは、医師に対する
医薬品自身の激しい販売促進と並行して行われる。モニハン氏は、「このような
広告はしばしば知らず知らずのうちに浸透するので油断ができない。真面目な
医療機関はこれらに対する統制を強める必要がある」と語った。
日本でもこの「疾病啓発広告・キャンペーン」が非常に盛んになっており、ある医療機関の職場で「うつ病啓発キャンペーン」の「あなたにはこんな症状はありませんか」の物指しを自分自身に試みてみたら、20人中13人がうつ病の疑いがあるという結果になったなど、笑えぬ事実がある。
当会議では、抗うつ剤SSRIで疾病啓発広告・キャンペーンの問題に取り組んできた。また、画期的な新薬が出にくくなっている世界的な状況のなかで、多数の健康人を「高脂血症」という病人にして、安直に既存品の売り上げを大きく伸ばそうとする「ガイドライン改訂」問題に、正面から取り組み、批判を強めてきた。また、「インフルエンザ脳症」という実体の明らかでない恐怖をあおり、タミフルの大量使用に走らせる日本独自の構図も、この病気作り(Disease Mongering)の構図に通じるものがあり、批判してきた。
今後もこのようなDisease MongeringないしはMedicalization(メディカリゼーション、医療化)といわれる「病気作り」・「病人作り」・「薬漬け」の動きは、強まりこそすれ弱まることはないと予想され、DTCA(医療用医薬品を製薬企業が患者・市民に直接広告)の問題(※3)とともに、今後も大きな取り組みの課題となると考えている。
(T)