抗菌剤ガチフロキサシンのあるべき位置はどこに
2006-03-30
(キーワード: ガチフロキサシン、抗菌剤、重篤な副作用、低血糖、高血糖)
NEJM誌(ニューイングランド.ジャーナル.オブ.メディスン) オンライン版2006年3月1日号の巻頭言ではガチフロキサシンの重篤な副作用とその対応を取り上げている(※1)。印刷版では3月30日に掲載予定だが、臨床上重要であることからオンライン版で公表した。日本でも2002年から販売され広く処方されている広域スペクトルの抗菌剤である。「重篤な副作用-森を通して木をみる」と題した巻頭言を、以下に要約した。
本号には、外来患者で重篤な血糖値不良を引き起こしているガチフロキサシンの臨床研究報告を掲載した(※2)。外来で抗菌剤を投与された後に血糖値不良を起こして救急入院あるいは治療が必要になった成人(66才以上)について調べたケース.コントロール.スタディーである。ガチフロキサシン服用者ではマクロライド系抗菌剤と比較して、低血糖になる危険性は4.3倍、高血糖の危険性は16.7倍であった。
これまでも、一つの薬が市販されてからその重篤な副作用が明らかになるまでに余りにも時間がかかりすぎていることが指摘されてきた。ガチフロキサシンもしかりである。1999年に市販されて直ぐに、血糖値不良が報告されているのもかかわらず、重篤な危険性を評価できる質の高い研究が出されるまでに6年もかかっているのは長過ぎるのではないか。ガチフロキサシンについて今何をすべきかが、さしまった問題である。どうみても、この薬は外来患者に投与できる広域スペクトルの抗菌剤ではない。ガチフロキサシンの承認事項のどれをとってみても、同じ効果でもっと安全で安価な別の薬がある。医者、企業、規制当局にとってこの選択が、最近経験した他薬の副作用問題と比べて困難な選択であるとしてはならない。
2006年2月16日、メーカーは添付文書改訂を発表しているが、FDAは「1999年の承認以来わずかであるが致命的な症例が報告されているが、適切な処置を行えば致命的にはならない」として、黒枠警告とはしていない。しかし、この報告で、再考を余儀なくされるだろう。
日本では販売開始4ヶ月後の2002年10月に、「慎重投与」の項に「糖尿病患者」を入れて医療関係者の注意を喚起したが、その後も重篤な低血糖あるいは高血糖の報告が続いた。また、糖尿病患者以外でも発現したことから2003年3月には、緊急安全性情報が出され、添付文書に「警告」が追加されている(※3)。しかし、今回のNEJM誌では、糖尿病患者であるか否かにかわらずガチフロキサシン服用者では他の抗菌剤に比べ危険性が非常に高い事を示している。この報告が、異常を感じて来院した患者の記録を検討したものであることを考慮すると、ガチフロキサシンによる血糖不良発現は実際にはこの何倍もあるであろう。巻頭言にある「最近経験した他薬の副作用問題」とは、バイオックスを指しているように思われる。ガチフロキサシンも市場から退場してもらいたい薬である。(S)