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「ディオバン事件に関する意見書」を公表

2013-09-11

2013年9月11日付で、薬害オンブズパースン会議は「ディオバン事件に関する意見書」を公表しました。

ディオバン(一般名バルサルタン)は、ノバルティスファーマ株式会社(ノ社)が製造販売する高血圧治療薬(降圧剤)です。

2002年以降、東京慈恵会医科大学、千葉大学、滋賀医科大学、京都府立医科大学、名古屋大学の各大学により、いわゆる医師主導臨床試験として、ディオバンと既存の降圧剤の効果を比較する大規模臨床研究が行われ、ディオバンは既存の降圧剤より脳卒中などの合併症の予防効果が優れているとする結果が発表されて、ディオバンは年間売上額が1000億円を超える大ヒット薬となりました。

しかし、研究論文中のデータの不自然さが指摘され、2012年に日欧の学会誌が京都府立医大試験の関連論文を撤回。その後、5つの試験の統計解析責任者とされていた人物がノ社の社員であったことが明らかとなり、さらにこれまでの調査から京都府立医大試験と慈恵医大試験で結論をディオバンにとって有利に導こうとするデータの不正操作がなされていたことが判明し、調査が続けられています。

また、試験を実施した5大学の主任研究者が主宰する研究室に対して、ノ社から巨額の奨学寄付金が提供されていたことが判明しています。
 
本意見書は、この事件の問題点の解明と再発防止策について、関係諸機関が果たすべき役割を以下のように指摘しています。


<意見の概要>

◆問題点の解明について
1 真相究明
(1) 試験を実施した5大学は、カルテとのデータ照合、関係記録の精査、関係者に対する聞き取りなどの調査を引き続き行い、試験結果の妥当性の検証、試験における元社員及びノ社の関与の内容、試験費用と奨学寄附金の関係などについて明らかにすべきである。

(2) 各試験の研究責任者は、関係機関の調査に全面的に協力することはもちろん、自らの立場でも事実関係を公的に説明すべきである。

(3) ノ社が2013年7月29日付で発表した報告書の内容はきわめて不十分であるから、ノ社はより詳細な調査結果を速やかに公表すべきである。また、厚生労働大臣はノ社に対し事実関係の報告を命じ、報告内容を公表すべきである。

(4) 厚労省の「高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会」は、関係者に対するヒアリングを積極的に行うほか、重要な事実や、各大学とノ社の間で見解の対立のある点については客観的資料の提出を求めるなどして、可能な限り真相に迫る努力がなされるべきであり、また調査過程とその結果については最大限の透明化を図るべきである。

(5) 衆参両院は、本事件について集中審議を行い、強制力のある証人喚問を活用するなどして事実を調査し、立法課題を明らかにすべきである。

2 関係学会及びディオバンのプロモーションに関与したメディアは、自らないし所属の専門医がプロモーションに果たした役割を検証し、またプロモーションに関与した専門医の利益相反の有無を調査するなどして、問題点を明らかにし、再発防止策を公表すべきである。

3 国は、わが国のこれまでの医師主導臨床試験における企業の関与について実態調査を行うべきである。


◆再発防止策
1 不正行為の再発防止
(1) 現在見直しに関する議論が進められている「臨床研究に関する倫理指針」は、この見直しを期して法制化し、併せて、臨床研究全般をカバーする信頼性の確保のための法規制を導入すべきである。

(2) 医学研究における不正行為の有無を調査する制度を創設し、調査機関に適切な権限を付与する必要がある。また、各研究機関が不正行為者に対する懲戒処分に関する内規を作成すべきであり、医事及び薬事に関する免許を保有する者が医学研究において不正行為を行った場合には、不正行為の内容に応じた行政処分(戒告、業務停止又は免許取消し)を行うべきである。

(3) 企業は、研究不正のあった医薬品・医療機器によって得られた利益のうち、健康保険における患者自己負担分相当額については、創設される公的基金の資金として拠出し、健康保険の負担部分については健康保険組合に返還するべきであり、そのために必要な法的根拠を整備するべきである。

2 利益相反対策
(1) 臨床試験に対する資金提供は、提供目的を明示した委託研究契約などの方法によって行われるべきであり、臨床試験への資金提供を目的とする奨学寄附金は禁止すべきである。

(2) 日本製薬工業協会は速やかに「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」ガイドラインを完全実施し、日本医師会もこれを積極的に受け入れるべきであるとともに、同ガイドラインの法制化も検討されるべきである。

(3) 全ての大学・研究機関は、製薬企業からの寄附金等の受入状況や教員・研究者における講演料等の受取状況などについて、ホームページ上で公開するなどの方法により情報公開を行うべきである。

(4) 政府による臨床研究に対する財政支援を拡大するとともに、海外の制度を参考に、臨床研究への資金提供を行う公的基金を創設すべきである。


◆まとめ
 本事件は、利益相反が研究の公正の脅威となることをあらためて示したものであり、わが国の医学会及び行政には、産学連携が内包する利益相反の危険性を軽視してきたことを反省し、これを機に徹底した再発防止策をとることが求められているというべきである。

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