ラジカット注(エダラボン)
1 ラジカット注(エダラボン)とは
一般名 | エダラボン |
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商品名 | ラジカット注30mg 20ml/アンプル |
企業名 | 三菱ウェルファーマ |
薬効分類 | 中枢神経系用剤 (脳保護剤、フリーラジカル消去剤) |
推定市場 | 325億円(2006年) 保険薬価 1アンプル8245円 |
効能・効果 | 脳梗塞急性期に伴う神経症状、日常生活動作障害、機能障害の改善 |
用法・用量 | 成人に1回1管を適当量の生理食塩液等で用時希釈し、30分かけて1日朝夕2回点滴静注。発症後24時間以内に投与を開始し、投与期間は14日以内。 |
2 取り上げた経緯
- (1) 本剤は、わが国では2001年6月から販売されている。なお、審査報告書によれば、海外では承認も開発もされていない。
- (2) 市販後の副作用報告により、2002年6月、使用上の注意の「重大な副作用」に、「急性腎不全」の記載が指示された。その後も新たに腎機能障害の増悪を含む急性腎不全の報告がなされ、計29例、うち死亡例が12例となり、とくに80歳以上の患者においては致命的な経過をたどる例が多く、2002年10月28日「緊急安全性情報」の医療機関への配布が指示された。
- (3) 日本経済新聞2003年2月28日号に「厚生労働省のまとめで、ラジカットを投与された患者のうち、40人が急性腎不全の副作用で死亡していたことが判明、厚生労働省は改めて医療機関に注意を呼びかける」と報道された。約4か月間に12例から40例への死亡数の増加は非常に重大な情報であるにもかかわらず、該当する安全性情報No.186には、死亡数については何もふれられていなかった。
- (4) これらの情報に接し、2003年5〜9月に当会議としての対処方針を検討した。
3 何が問題か
- (1) 危険性
これら急性腎不全の重篤な有害反応は、ヒトでの薬物動態が動物と異なり、有効とされる血中濃度をヒトで確保しようとすれば多量のエダラボンラジカルが腎臓に負荷をかけることが推定される。また、急性腎不全以外にもDICや重篤な肝障害など、問題が多い。 - (2) 有効性
本剤の臨床的な有効性は極めて疑わしい。第Ⅲ相臨床試験は、1987年の「脳血管障害に対する脳循環・代謝改善薬の臨床評価方法に関するガイドライン」に沿って、全般的改善度で評価されており、急性期脳梗塞治療薬の確立された評価方法によっていない。審査報告書によれば、本剤は海外では承認も開発もされていなく、全くの日本ローカルな「薬剤」である。脳卒中の「神経保護剤」について「クリニカル・エビデンス」(2007.12)は、「有益性に乏しい」(Unlikely to be beneficial)と評価しており、海外の代表的ガイドラインである米国脳卒中学会(ASA)の「虚血性脳卒中患者の初期管理のためのガイドライン2005」でも、「急性虚血性脳卒中患者の治療に推奨される神経保護剤は存在しない」としている。 - (3) 経済性
薬価が1アンプル8245円と非常に高価である。 - (4) 総合評価
以上を総合すると、本剤は今ではその大部分が市場から消えた「脳循環・代謝改善薬」(日本独自の臨床評価方法で評価され、厳密な比較試験による再評価では有効性が確認できず)同様有効性は疑わしい一方で、安全性面では命を脅かす重篤な有害反応があり、その有用性には重大な疑問がある。
4 基本的な行動指針
本剤は上記のように総合評価される可能性が大きいものの、死亡数が40例に達していると報道されてからかなり日が経過しており、その後の情報としても「日薬医薬品情報」2003年10月号に、日本薬剤師会医薬品情報評価検討会ワーキンググループが独自に三菱ウェルファーマに問い合わせた2002年12月25日現在の死亡数29の数字などがあるだけなので、まず1)現時点での死亡数とそれらの詳細、2) 現時点での腎機能障害の増悪を含む急性腎不全を来たした症例数とそれらの症例の概要、の情報公開を求め、現時点での安全性情報を確認することで取り組んだ。
5 具体的行動とその結果
2003年10月7日付で、上記の安全性情報の公開を求める要望を、厚生労働省および三菱ウェルファーマに文書で行った。回答は出されていない。
6 今後の課題
現行の「脳卒中治療ガイドライン」が、全般的改善度をアウトカムとした臨床試験を、元の試験では単なる調査項目でしかなかった指標を主要エンドポイントに「変更」して外国雑誌に投稿した論文を「根拠」に、脳梗塞急性期治療剤として推奨している。売り上げは増加傾向にある。本剤は「ローカルドラッグ」の代表例とも言える薬剤であり、ガイドライン作成の在り方の問題としても引き続き取り組んでいきたい。
機関紙
該当する情報はありません。