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被験者募集広告問題

1 被験者募集広告とは

具体的な治験の被験者の参加について、医師が患者に提案するのではなく、医師の介在なしに製薬企業が直接消費者に応募を呼びかける(Direct-To-Consumer)募集広告である。
1999年6月ごろから、インフルエンザ、うつ病、胃炎、不眠症、脳梗塞、尿失禁、リウマチ、アルツハイマー病、肺炎、勃起障害、アトピー性皮膚炎、骨粗しょう症、偏頭痛などの疾病について、科学雑誌、新聞、折込広告、インターネットなどのメディアに登場している。

2 取り上げた経緯とその後の経過

2000年8月 研究班を編成し調査研究開始
2001年8月1日 ①厚生労働省に対し、現行の被験者募集広告の中止および情報提供の適正化措置を求め、②製薬協に対し、中止、公正な情報提供、治験結果の同じ媒体での公表およびテレビ広告自粛について、加盟各社に助言を行うことを求め、③日本医学会および日本医師会に対し、標準的治療法についての情報公開、中央の公的評価システムの構築、個別化された医療指針の作成等、治験デザイン公開システムの構築を行うこと、説明同意文書に標準治療法の有無、その長所・短所の治験薬との比較ならびに開発段階からみた具体的治験の意義、実験性、危険性等につき公正な記述をするよう助言することを求めた。
2001年9月1日 製薬協から、2000年3月に製薬協が策定した「治験に係わる被験者募集のための情報提供要領」に則った情報提供は薬事法に触れないとし、意見書の諸論点について回答をしない事実上門前払いの書簡が送付された。

3 何が問題か

(1) 薬事法68条の脱法行為
承認前の医薬品等の名称、製造方法、効能、効果または性能に関する広告は禁止されている(薬事法68条)。一方、旧GCPから新GCP体制(1997年)に移行する過程で、「治験の空洞化」が懸念され、「治験を円滑に推進するための検討会」が「薬事法においては、治験薬の商品名が特定しない範囲で治験薬につき情報提供を行うことは可能である」と報告(1999年)。これを受けて、厚生省は、「治験に係る被験者募集の情報提供の取り扱いについて」1999・6・30医薬監第65号通知を出し、治験薬の名称、治験記号等を表示しない場合は広告に該当しないとした。2001年3月からは医療法上の医療機関名の表示を認める規制緩和がなされ、被験者募集のための情報提供の途が開かれることになった。しかし、現行の被験者募集広告は、参加資格条件を情緒的に広げ不安を梃子に呼びかける点、具体的治験のデザインのうち開発段階との関連からみた意義、実験性、危険性に関する部分が明示されない点で共通している。治験の負の側面について情報提供がなく、情報の提供ではなく客寄せ広告そのものと考えられ、公正な情報の提供とは言えない。薬事法§68の禁止を潜脱する脱法行為にあたる。

(2) 個別化された最善の医療をゆがめるおそれ
情緒的で漠然とした広告情報で強く印象付けられ(広告効果)、一旦、広告に接して参加意思が生じその方向で動き出すと、情報操作も容易になる。標準的治療法の有無、長所・短所、具体的患者の病歴・診断像とつきあわせた冷静かつ合理的な検討はおろそかになり、病気をかかえた素人に先ず治験への協力を検討させることになるから、個別化された最善の医療をゆがめるおそれがある。

(3) 担当医の判断をゆがめるおそれ
医師が参加を呼びかける場合と異なり、患者が参加を申し出ることで、担当医には、広告中の治験に参加させることを他の選択肢より優先させる方向での圧力が働くおそれがある。そうすると、具体的患者のための個別化された医療の見地から不適正な被験者選定が行われ、プロフェッショナルの自律的判断を歪めるおそれがある。

(4) 被験者の自己決定が他者の目的に利用されるおそれ
説明同意文書の現実は、それぞれの治験について、具体的な開発段階からみた意義、どこがどういう意味で実験・研究か、方法の要点、治験薬と代替的治療法の比較、危険性などについて、情報がないか、素人の目を眩ませ錯覚させるものが多い。
ヘルシンキ宣言は、治験デザインの公開を規定している。しかし、患者にはプロトコルの閲覧・謄写は認められていない。情報の非対称は決定的である。患者は、セカンド・オピニオンを求めるすべがない。製薬企業から支払われる研究費、謝礼、奨学金等は医師や医療機関の収入源である。多施設で実施される治験で一施設の治験審査委員会が広告文を十分に審査することは期待できない。インフォームド・コンセントはミスインフォームド・コンセントに変質していく。患者個人のための個別化された医療が失われ、自己決定は容易く他者の目的の道具として利用されてしまう。広告内容がどうあれ、治験現場でインフォームド・コンセントが確保されれば問題ないとは言えないところに問題の本質がある。

4 基本的行動方針

厚労省、製薬協、日本医師会等に回答を求めていく。製薬協の前記書簡は、対話を事実上拒否する慇懃無礼なものと評するほかなく、公的団体としての説明責任を果たすものといえない。
なお、標準的治療法についてはシステム化する動きが出てきている。

5 今後の課題

現行の被験者募集広告それ自体の問題と、現行の治験の問題と重なっている。
日本で行われる治験における最大の問題点は、薬事法に基づくGCPが医の倫理ないし医プロフェッショナルの責任と結びついておらず、被験者保護に欠けることである。治験の制度的環境整備が不十分であることを引き続き問題提起していく。

トピックス

  • 薬害オンブズパースン会議
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2001-08-09
『被験者募集「広告」の中止・適正化等を求める意見書』提出