添付文書の法的位置づけの見直し
1 添付文書の法的位置づけの見直しとは
現行薬事法は、医薬品の添付文書の記載内容を承認事項とする明示の規定を置いていない。そのため、実務上添付文書の記載内容は承認事項ではないとして運用されている。このような添付文書の薬事法上の位置づけを改めるべきではないかとする議論が、従来から行われてきた。
2 取り上げた経緯
当会議は、従前から添付文書の法的位置づけについて問題提起をしてきたところであるが、2013年5月に国会に提出された薬事法改正案において改正事項の一つとして取り上げられたことから、これに対し意見を述べることとした。
3 何が問題か
- (1) 行政責任の不明確性
現在、医薬品の承認申請の添付資料として添付文書案を提出することが通知によって要求され、その内容をPMDAが審査し、不備があれば修正するよう行政指導し、修正の上で承認するというように、実質的には添付文書が承認事項となっているのとほぼ同様の取り扱いがなされている。
しかし、薬事法上は添付文書が承認事項とされていないため、国はこのような審査を行う法的義務を負うものではないと解する余地があり、また修正を求める行政指導は、企業に対する強制力を持たない。 - (2) 添付文書の記載不備による薬害の発生
このような現行薬事法の下で、ソリブジン事件、薬害肝炎事件、薬害イレッサ事件など、添付文書の記載不備が問題となった薬害事件が繰り返し発生してきた。
また、同一医薬品について欧米の添付文書に比して日本の添付文書の記載が不十分であるなど、当会議が添付文書の記載の不備を指摘した事例も枚挙にいとまがない。 - (3) 薬害肝炎検証・再発防止委員会などによる見直しの要求
このような現状から、薬害肝炎検証・再発防止委員会の最終提言(2010年4月)は、「欧米の制度も参考に、承認の対象とするなど承認時の位置付けを見直し、公的な文書として行政の責任を明確にするとともに、製薬企業に対する指導の在り方について検討すべきである。」として、添付文書の薬事法上の位置づけを見直しを求めた。
さらに、上記最終提言を受けて薬事法改正について検討を行った厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会のとりまとめ(2012年1月)の多数意見は、
- ① 改善命令など行政による是正権限の明確化
- ② 承認申請時の添付文書案の提出の義務付け
- ③ 製造販売前及び改訂時の添付文書の届出の義務付けがなされれば、添付文書を承認事項とする場合と国の責任について大きな違いはないとして、これらの内容を薬事法に盛り込むことを求めた。
- (4) 改正案の問題点
ところが、政府が提出した改正案は、製造販売時及び改訂時の届出義務(上記③)を課すのみで、行政の是正権限(上記①)、及び申請時の添付文書案の提出義務(上記②)については何ら規定を置いていない。
改善命令等の添付文書是正権限については、現行薬事法70条1項(廃棄・回収等の措置命令)及び72条の4第1項(改善命令)においても認められていると解されるが、いわゆる一般規定であって添付文書に特化した規定ではないため、添付文書に対する規制権限としては必ずしも明確ではない。添付文書の重要性に鑑みれば、添付文書に関する是正権限については個別規定をもって明記すべきである。
また、薬事法において企業に申請時の添付文書案提出を義務づけることによって、行政に対しては、提出された添付文書案の内容を審査すべき法律上の義務が課されると解される。承認申請資料として添付文書案を提出させる以上、それを審査の対象とすることを当然に予定していると考えられるからである。一方、届出義務のみでは、企業の責任はある程度課長されるものの、行政の責任は曖昧なままである。そのため、添付文書に関する行政の責任を明確にするという、薬害肝炎検証・再発防止委員会最終提言及び制度改正検討部会とりまとめの目的を実現するためには、承認申請時に添付文書案の提出を義務づける規定を薬事法に設けることが絶対的に必要である。
4 具体的行動
2013年8月29日、厚生労働大臣及び国会に議席を有する各政党に対し、「添付文書にかかる薬事法改正案に関する意見書」を提出した。意見の趣旨は以下のとおり。
- (1) 薬事法改正による添付文書の法的位置づけの見直しについては、以下のような改正
を行うべきである。
- ① 添付文書の記載事項を承認事項とすべきである。
- ② 承認事項とせず、添付文書の事前届出義務を課すにとどめる場合には、あわせて、以下の規定を設けるべきである。
- ア 添付文書の改善命令等の是正権限に関する規定
- イ 承認申請時に申請添付資料として添付文書案を提出する義務を課す規定
- (2) 第183回通常国会に提出された「薬事法等の一部を改正する法律案」は、添付文書の法的位置づけの見直しについて、添付文書の事前届出義務を課すのみであり、当会議はこの点に強く反対する。
5 行動の結果と今後の課題
薬事法改正案は、2013年臨時国会で審議予定となっている。もともと民主党の政権担当時に提出された法案であり、最大野党の民主党が賛成の立場を取っていることや、改正案に含まれる医療機器や再生医療に関する規制緩和を成長戦略と位置づける安倍政権が成立に強い意欲を持っていることから、成立阻止は容易ではない状況であるが、国会議員などに改正案の問題点を訴えて慎重な審議を求めるとともに、今後も引き続き見直しを求める活動を続けていかなければならない。
機関紙
- 2013-11-01
- 添付文書に関する薬事法改正案の問題点