抗がん剤被害救済制度検討会
1 抗がん剤等による健康被害の救済に関する検討会
「抗がん剤等による健康被害の救済に関する検討会」は、2011年5月に設置された厚生労働省の検討会である。
医薬品副作用被害救済制度においては、抗がん剤による副作用被害は救済の対象外とされているが、これらの被害についても救済すべき旨の指摘があることから、課題を整理し、今後の施策の在り方を検討するために設置されたものである。
2 取り上げた経緯・問題点
医薬品副作用被害救済制度は、多くの患者に治療上の利益をもたらす一方、副作用被害が発生することを避けられないという医薬品の特性に鑑み、薬害スモン事件の被害者運動の成果として、公平と被害者救済の観点から、1979年に創設された制度である。
創設時には適用対象から除外されていた生物由来製品及び抗がん剤のうち、生物由来製品は2004年から本制度の対象となったが、抗がん剤については依然として適用対象外とされている。本制度の趣旨からは、抗がん剤だけを救済の対象から除外する理由はなく、抗がん剤の安全性確保の観点からも、本制度の適用対象とすべきと考えられる。
「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」の最終提言においても、本制度の創設について指摘されている。また、厚生労働省が、薬害イレッサ事件に関する東京及び大阪地方裁判所の和解勧告を拒絶するに当たって、被告国は、本制度の創設を検討する旨を表明している。
医薬品副作用被害救済制度の趣旨に鑑みれば、がんが日本人の死亡原因の3分の1を占めつつある現在、抗がん剤による副作用についても同様に救済されるべき現状にあるといえることから、これを取り上げることとした。
3 何が問題なのか
- (1) 厚生労働省の論点整理における問題点
- ① 財源論
厚生労働省は、どのような利益侵害に対する救済を目的とするか、給付内容や費用負担の在り方も含めた制度全体が適切なものになり得るかについて、費用負担者や国民一般の目から見て納得できるものとする必要があるとしている。しかしながら、財源問題は制度設計の在り方の検討の中で克服すべき問題であって、被害救済という制度の必要性を否定する理由にはならない。 - ② 因果関係
厚生労働省は、抗がん剤の副作用は、がんによる症状や、放射線治療、手術等に起因する副作用や合併症との区別が難しいと指摘し、迅速かつ適正な判断を行うことに相当の困難を伴うと指摘する。しかしながら、因果関係の判断に困難を伴うケースがあることは、他の医薬品についても同じであり、制度を創設しない理由にはならない。また、検討会の配付資料を検討したところ、抗がん剤使用と健康被害との因果関係は、判定不能が多いとはいいきれない。 - ③ 適正使用
厚生労働省は、抗がん剤治療の現場では、患者の症状に応じて患者の同意の下に標準的治療法とは異なる抗がん剤の投与が行われることが少なくないため、添付文書に記載のある治療や、医学・薬学的に広く認められる使用を除き、不適正使用として給付対象外となる可能性があること、この実態を踏まえると、訴訟の増加等を懸念して、医師による抗がん剤投与が控えられ、結果として患者の治療の選択肢が狭まるおそれがあることを指摘する。しかしながら、不適正使用が救済されないことは、他の医薬品の場合であっても同じであるし、適応外使用による副作用が救済されないことについては、インフォームドコンセントの問題であるから、制度創設を否定する理由にはならない。 - (2) 検討会の進行における問題点
検討会は、上記のような問題点を指摘しつつ、その問題点を克服する可能性につき十分な検討を行っていない。すなわち、制度設計の前提となる副作用数の把握や、副作用の判定等の調査検討は、制度創設には不可欠なものであり、検討会としては、ワーキングチームや研究班を設置し、十分な検討を行うべきであるが、このような検討はなされていない。
4 基本的な行動方針
抗がん剤副作用被害救済制度の創設を求める。
5 具体的行動
2012年8月2日、厚生労働大臣及び「抗がん剤等による健康被害の救済に関する検討会」座長に対し、「抗がん剤副作用被害救済制度の創設を求める要望書」を提出した。
6 今後の課題
2012年8月10日、上記検討会は、「抗がん剤の副作用による健康被害の救済制度についてとりまとめ」を公表した。
同とりまとめは、「どのような利益侵害に対する救済を目的とするか等、制度設計の根本的な考え方に難しい問題がある」「がん医療の現場に望ましくない影響を与えかねない」等の問題点が生じかねない旨指摘し、「現時点では、抗がん剤の副作用による健康被害の救済制度の導入について、具体的に判断することは容易ではない」と結論づけている。
かかる結論は、前述の通り十分な検討がなされたとは言い難い状況で出された結論であり、当会の要望書の趣旨に反するものであるが、他方で、「政府においては、今後もがん医療の進展を踏まえるとともに、がん対策を進めながら、引き続き抗がん剤の副作用による健康被害の救済制度の実現可能性について検討を続けていくべき」との指摘もなされているため、今後いかなる方法で検討がなされていくかに注目し、適時に意見を述べていく必要がある。
機関紙
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