Selling Sickness国際会議
1 Selling Sickness国際会議とは
Selling Sickness 国際会議は、2010年10月7,8日の2日間、オランダのアムステルダムにおいて"Healthy Skepticism(健全な懐疑主義)オランダ"という組織が主催し、医薬品適正使用研究所及び"Healthy Skepticism インターナショナル"が協催した国際会議である。
「Selling Sickness」は、レイ・モニハン氏とアラン・カッセルズ氏による著書(日本語版 「怖くてのめない!」古川奈々子訳 ヴィレッジブックス)の題名である。医薬品の販売促進の目的で、本来は病気というべきでないものを新たな病気と定義して、医薬品の処方対象を拡大する製薬企業の販売戦略を意味している。
Selling Sickness 国際会議は、「Selling Sickness(病気づくり」と「疾病啓発」に名を借りた医薬品の宣伝広告が、医薬品の適正な使用を損なっている現状の問題点を分析し、医薬品の適正使用を実現する方策を討議するために開催された。
"Healthy Skepticism インターナショナル"とは、誤解を招きやすい健康情報の害を減らし健康を改善することを目的に、調査、教育や支援運動に取り組むNPO組織である。1983年、オーストラリアでの活動から始まり、現在131国、3,542名の加入者がいる。
Webサイト上でのフォーラム、電子メールディスカッションを通じて情報を共有し、学会誌への発表、メディアへの情報提供等を行っている。
2 取り上げた経緯
これまで当会議が取り上げてきた抗うつ剤、コレステロール低下剤をはじめ、骨粗鬆症治療薬、排尿改善剤等々に現われているメディカリゼーション(医療化、薬漬け医療)、本来薬を必要としない市民への薬の使用を啓発する製薬企業の販売実態、薬の情報のあり方に関する問題意識から、「Selling Sickness 国際会議」に参加し、国際的な活動を学び、連帯した活動の契機になることを目指した。
また、ポスターセッションの公募に対して、肺がん治療薬イレッサについて、承認前からの医学情報の提供を装った宣伝により「夢の新薬」との期待を流布され、副作用である間質性肺炎により承認から半年で180人、2010年3月までに810人もの死亡者を出した日本での実態を発表することとした。
3 何が問題
医薬品の販売促進の目的で、本来は疾病というべきでないものを新たな疾病として、医薬品の販売を拡大するメディカリゼーションや、エビデンスに基づかないガイドラインや診断基準により、不必要な市民にまで処方対象を拡大する製薬企業の販売戦略は、医薬品の適正な使用を損ない、過剰な薬依存、副作用の拡大、医療費の膨張等につながっている。
そして、その状況は世界各国に共通しており、国際的な情報の共有と連帯が必要とされている。
4 行動と結果
当会議からはSelling Sickness国際会議に3名が出席した。
会議は、スポンサーであるオランダ保健局、オランダ保健医療観察局及びWHOヨーロッパ地域局の関係者はもとより、世界各国から医療専門家、製薬企業関係者、市民団体関係者など200名以上が集まり、非常に盛況であった。
19名の演者により、疾病啓発の実例の紹介、疾病啓発広告と売上の関係性を示した研究報告、患者へのエビデンスに基づく情報提供の取り組みの紹介、WHOによる広告の定義やガイドラインの紹介等、豊富な内容の講演が行われた。
各演題ごとに討論時間が設定されたが、どの演題も熱心な議論がかわされ、国際的な動きを学ぶ場となった。各国、各分野で活動しているメンバーとのつながりをつくることができた。
ポスターセッションでは、イレッサ薬害に関するポスター発表を行った。
ポスター発表は22演題であったが、その中で、3演題が表彰を受け、当会議の報告は、「ポリシー賞」を受賞した。イレッサ薬害は、がん治療における重大な問題を投げかけており、この問題を発表したことが高く評価された。
会議の最後は、患者の利益のために、国際的なネットワークを創設することの重要性を確認して会議が終了した。
5 今後の課題
この会議を通じて、患者、市民の利益を守る立場で、積極的に活動している人々の存在や、またWHOやHealth Action International (HAI) などの国際組織の取り組みについても知ることができた。
当会議も、国際的なネットワークの強化に加わっていくことが求められている。また、イレッサ薬害を教訓とした制度改革の実現、イレッサ薬害の全面的な解決に力を尽くす。
機関紙
- 2010-11-01
- Selling Sickness 国際会議に参加して