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 薬害オンブズパースン会議(OP会議)では、喘息薬のベロテックエロゾル(販売元/日本ベーリンガーインゲルハイム)をOP会議の最初の活動対象薬として選び、その活動を開始しました。

1 ベロテックエロゾルの危険性
 このベロテックは、喘息の発作が起こった際に、定量噴霧式吸入器(MDI)により吸入し、気管支平滑筋弛緩等を司る交感神経β2を刺激し気管支を拡張して喘息発作を緩和する薬ですが、同時に心臓の収縮力や拍動を司る交感神経β1に及ぼす刺激作用や心筋障害作用があることが知られ、他の同種薬よりもこの作用が強いことを示す実験データがあります。ニュージーランドでは、既に1989年に同薬の安全性について疑問の声が上がり、同国保健省が警告を出すとともに保険適用薬から除外し事実上喘息薬として使用されなくなりました。その結果、同国での喘息死の死亡率は2分の1に減少しています。アメリカでは、製薬会社によって、ベロテックの承認申請がなされましたが承認されるには至りませんでした。
 また日本では、1985年にベロテックが発売された直後から喘息患者の死亡者数が急増し、現在、喘息患者の死亡率は、ニュージーランド、米国、ドイツ、イギリスと比べて最も高くなっています。日本でのベロテックの販売本数は、MDI全体のシェアの18.3パーセントにすぎないにもかかわらず、死亡者中のベロテックの使用者の人数は死亡者全体の51.6パーセントに上っているのです。

2 OP会議による危険性の検討
 このような状況を踏まえ、OP会議設立準備会では、連携機関である医薬品治療研究会(TIP)にベロテックに関する詳しい調査を依頼するとともに、OP会議設立準備会内にベロテック担当班を作り、ベロテックを行動の対象薬にすべきか否かの検討に入りました。
 そして、様々な資料を分析検討した結果、ベロテックについては、医学的な実験データ、及び疫学的な統計データの両面から見て、その安全性に大きな疑問があるとの結論に至りました。これを受け、OP会議設立準備会及び6月8日に開催された第1回OP会議においてベロテックに関する詰めた議論が交わされました。その結果、まずベロテックをOP会議の行動の対象薬とし、厚生省或いは製薬会社に対して早急に医学的、疫学的調査研究を実施し、その安全性を確認するべきことを申し入れるべきであるという基本的な行動指針が決定されました。

3 具体的な対応策の検討
 さらに、安全性が確認されるまでの当面の対策としては、どのような選択があり得るのかについて真剣な議論が行なわれました。現に、ベロテックを使用している患者さんに過度の不安を与えてはならないという慎重論もあり、患者さんの自己決定権や医師の裁量等をめぐっても様々な意見が交わされました。その結果、ベロテックの使用は、対症療法にすぎず、喘息の原因となる気管支の炎症に対する根本的治療をより徹底する必要があること、代替薬となりうるβ2刺激剤としては硫酸サルブタモール、ツロブテモールなどが存在すること、今もなお重篤な副作用の危険にさらされている患者さんがおられることを考慮し、代替薬への移行のための一定期間を設けた後、その安全性が確認されるまで、販売を一時停止するべきであるとの最終結論に至りました。また、これを推進することによって我が国における喘息死を少しでも減少させたいという議論もされました。

4 OP会議の行動
 この間、厚生省から、5月19日付でベロテックに関する「緊急安全性情報」をだされましたが、その内容はベロテックの使用方法の注意を促すだけの不十分なものにすぎませんでした。また、マスコミでも、ベロテックないし吸入式β2刺激薬の安全性に関する問題が取り上げられましたが、ベロテックの問題性を正面から取上げる報道がある一方、問題点を、喘息の治療方法のあり方、すなわち吸入式β2刺激薬を過度に使用することの問題性にのみ絞り込む報道もあり、決して十分な問題提起がなされているとはいえない状況にありました。
 このような中、OP会議は、正式発足翌日の6月9日、厚生大臣、厚生省担当部局、中央薬事審議会担当部局、ベロテックの販売元である日本ベーリンガーインゲルハイム社に対し、ベロテックの安全性に関する質問とともに、資料の提供・開示・医学的、疫学的調査の実施、販売の一時停止を求める要望書を手渡しました。また、医師会、患者会等へもこの要望書を送付して申し入れに関する連絡をしました。

5 反響と対応
 このOP会議の行動は、マスコミでも報道され、申入れの翌日からOP会議事務局には沢山の意見や情報が寄せられました。被害を訴える遺族の声や、実際にベロテックの一時販売停止に反対する医師や患者さんからの意見もありました。事務局では、これらの情報を整理するとともに、対応を尋ねてきた患者さんに対しては代替薬移行のための手続きや基本的な喘息治療に関する資料を作成、送付するなどして対応しました。また、販売停止に反対する方々に対しては、OP会議が販売の一時停止という結論に至った経緯とその根拠について繰り返し説明して理解を求めています。
 さらに、医師に対しては、ベロテックに関するOP会議の行動についての理解を求めるとともに、患者さんに対するインフォームドコンセントにより適切な喘息治療と代替薬への移行を実現していただきたいという強い希望を述べた医師むけの文書(ドクターレター)を作成し医師会等に送付しました。7月29日に、担当者と面談しましたが、同省の対応は従前のままで極めて消極的です。
 また、日本ベーリンガーインゲルハイム社からは、7月3日付でOP会議に宛てて文書が送られてきましたが、その内容はOP会議に対する逆質問に終始するもので、さらに8月27日に送られてきたものについても、OP会議の問題提起を真正面から受け止める回答からは程遠い内容となっています。

6 今後について
 今後、OP会議では、厚生省に対し、OP会議の要望書に対し早期に回答するように求め
日本ベーリンガーインゲルハイム社に対しては、データの公開や質問事項への回答を改めて、申し入れるとともに喘息専門医や関連学会との意見交換を行い、さらには、被害情報についての追跡調査、タイアップグループによる医療従事者に対するアンケート調査を実施することなどを予定しております。

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