No.65 (2020-12-15)
薬剤師は医師や看護師と同じ医療専門職ですが、医療職のなかで最も、どのような仕事をしているのか理解されていない職種ではないでしょうか?「アンサングシンデレラ」のドラマ化で少しは理解されるのかと期待しましたがどうでしょう? ドラマはあまり見ませんでしたが、原作では、新人薬剤師の主人公が、専門薬剤師など今後の自分の方向性に悩んだ末、「薬剤師という職業を理解してもらう」のが自分の当面の使命ということに落ち着いていました。
医学や薬学の発展で薬剤師の現実の仕事も変化し、高度になってきています。世界的には、欧州ではギルドの伝統があり、品質管理や薬剤の供給(物流管理)などが薬剤師の職能として重視されています。米国では1970年代の「クリニカルファーマシー」という、より深く臨床にかかわる方向性から発展し、「ファーマシューティカルケア」という、薬を通して目の前の患者さんの「結果」に責任を持つ行動哲学が提唱されています。世界的にも薬剤師の職能は確立されているというよりは、医学、科学の発展や社会情勢の変化などで発展、変化していくものではないかと思います。
先日、医学部をめざす高校生が私の勤める病院の薬局を見学に来たとき「AIの活用が医療現場でも進んだ場合、薬剤師は必要とされるでしょうか?」という率直な質問がありました。
薬剤師が現状のままでは、生き残っていけないでしょう。そのためには、薬剤師職能について深く追求し発展させていかなければなりません。
2007年に私が当会議のメンバーになったときに、この機関紙に掲載された「タイアップの今後と薬剤師への期待」の中で、薬剤師職能の中核は「薬の評価」であると述べました。
日本学術会議は2014年1月と2020年9月に薬剤師の職能に関する提言を出しています。提言をまとめた薬学委員会の平井みどり委員(京都大学薬学部卒、神戸大学医学部卒)は、薬剤師の将来像として、「医師の処方→薬剤師の調剤、という順序を見直し、医師が処方する前に薬剤師が提案する」、「医師は診断、薬物治療は薬剤師、というのが理想的な医薬分業」と述べています。薬物療法のアセスメントからプランまで薬剤師が責任を持つということです。
しかし、「薬の評価」で難しいのは、その薬の本質をきちんとつかむことができるかどうかです。薬は物質として存在しますが、その本質は情報の塊であり、その情報を薬剤師がどのようにとらえるのかが問題です。近年、ますます「ビッグファーマ」の力が強くなってきており、「命よりもお金」という薬害が起きやすい社会になってきているという危機感があります。バイアスがかかっている情報かどうかを見極めるのが困難な現状があります。
もともと、薬剤師はドイツの王様が医師に毒殺されないためにできた職業なので、「薬(害)の監視」が薬剤師の職能の中核であることはまちがいありません。薬剤師が薬の害から患者さんを守る最後の砦にならなければなりません。