No.16 (2003-02-01)
イレッサをめぐる薬害の記事が大きく報道されている。
国は、国民の健康と安全を守るために、主体となってせねばならない新薬の審査や医薬品の安全性対策を、独立法人化して製薬企業からの資金に依存して行っていこうとしている。その見返りとして、新薬承認の迅速化が、イレッサの例を検証すればその破綻が明白であるにかかわらず、推進される。新たな薬害の発生が懸念される状況である。
薬害が頻発し、医療現場には有効性・安全性がはっきりしない化学物質があふれ、まさに
炎を噴いている、薬の状況がある。そんな中で薬をその職能の対象とする薬剤師や薬学関係者の社会的責任が問われるのは当然であろう。
近代日本の出発にあたり、薬を扱う専門家としての薬剤師職能を活用する制度の確立に
失敗したことは、その後の日本の薬学に非常に大きなゆがみをもたらした。薬学は、その名からして薬を離れては存在しえない。薬は生体に対して用いられるのに、日本の薬学はこれまで化学偏重といわれ、患者や生命を基盤とするものから大きく離れ、薬を知らない薬学出身者や薬学研究者を生み出した。
しかし、薬剤師、薬学関係者をめぐる状況はようやく大きく変わりつつある。1995年の医療法改正により、薬剤師は始めて「医療を担う一員」として明記され、医薬分業(医薬協業)は院外処方せん発行を絶対化するという制約のもとではあるが進展し、新たな時代を迎えている。長く医療から疎外された状況が続いたことで、薬学自体が本来の姿から離れ、薬剤師、薬学関係者も薬の問題に真っ向から向き合うことが弱くなっていたことはいなめない。しかし、状況が変わり、薬剤師はその存在意義をあらためて問われ、薬の問題にも真っ向から向き合うことが要請されており、まさに正念場にある。
「患者本位の医療」がこれからの医療のキーワードになっている。患者にとって適正な医薬品であるのかどうか、薬剤師が責任をもって対応することを目指す、薬剤師の活動の中心に患者の利益を据える行動哲学・ファーマシューティカルケアが、指針となる。
薬害の防止、薬の使用適正化の課題は、勿論医療や研究などの現場での取り組みが大事ではあるが、多忙な現場での個人的な努力だけでは解決できない課題であり、それだからこそ、薬害オンブズパースン会議とそのタイアップグループなど医薬品監視市民団体への結集とその活動の充実が要となる。
薬剤師、薬学関係者のみなさん、ともにがんばって社会的責任を果たしていきましょう。