No.63 (2020-03-01)
● 新しい作用機序の禁煙補助剤として登場
チャンピックス(一般名:バレニクリン酒石酸塩)は、2008年1月に承認された禁煙補助剤である。ファイザー社(日本法人)が、それまでの標準剤ニコチンパッチと異なる新しい作用機序の内服剤として製造販売し、「お医者さんと禁煙しよう。」というキャッチフレーズで疾病啓発型の広告が行われ、広く使用されるようになった。
● 危険性―自殺行動や攻撃性
しかし、本剤には、抑うつ気分、不安、焦燥、興奮、行動の変化、自殺念慮、自殺などの重大な精神障害を引き起こす危険性がある。
日本に先立って本剤を承認した米国FDAは、多数の有害事象報告をもとに、2009年9月から、精神神経障害のリスクを添付文書中では最も重大な警告である黒枠付の警告欄(「Boxed Warning」)に記載するよう指示するとともに、安全性を確認するための臨床試験の実施を指示していた。
● 添付文書改訂に関する2度の要望と添付文書改訂
しかし、日本では警告が不十分であったため、当会議は、2009年7月、厚労省及びファイザーに対し、添付文書の改訂やリスク軽減の取り組み強化、適切な薬剤疫学調査の実施を求める要望書を提出した。
すると、翌8月、厚労省は精神神経障害症状を「警告」欄に記載するなどの添付文書の改訂を指示した。ところが、改訂された警告文は、冒頭に「禁煙は治療の有無を問わず様々な症状を伴うことが報告されており、基礎疾患として有している精神疾患の悪化を伴うことがある」として、禁煙自体によっても症状が起こりうることを記載していたため、警告としてはあいまいで十分な注意喚起とはなっていなかった。
そこで、当会議では、同年12月、改めて、厚労省とファイザーに対し、添付文書の『警告』欄内容についての要望書を提出し、前記の冒頭の記載を削除することなどの要望を提出した。
● その後の経過
その後、不十分だった警告欄のさらなる改訂は行われず、かえって2017年7月、米国で行われた臨床試験に基づく結果として、米国FDAが黒枠警告を削除したことを受け、日本でも、注意喚起は警告欄から「慎重投与」及び「重要な基本的注意」欄に移された。
振り返ってみると、同じ薬であるのに、日本と海外での添付文書の記載が異なり、日本では十分な警告がなされていないというダブルスタンダード、疾病啓発広告をめぐる問題など、本剤には当会議が繰り返し取り上げることとなる問題が示されていた。
本剤の精神障害の副作用は、警告欄に記載されていた当時でさえ、医療現場や患者に行き渡っておらず、当会議には、副作用である自殺企図によって死亡した被害者の遺族からの悲痛な訴えも寄せられた。中には後にPMDAの副作用救済制度で認定されたケースもあったが、そのケースでは、処方医に副作用に関する認識が十分になく、救済申請へ協力がなかった。現在もこうした状況が続いているのではないかと懸念している。