No.59 (2018-11-01)
法科大学院時代にサリドマイド被害者である増山ゆかりさんの講演を聞いて、薬害の深刻さと薬害防止の重要性を肌で感じ、そのことがきっかけとなって弁護士登録直後から薬害問題に関わるようになりました。
もちろん法律家である以上法的な分析はしなければなりませんが、それ以前に、相談者の顔を見ながら話をしっかりと聞き、その置かれている状況について理不尽だと肌で感じられるかどうかをこれまで大切にしてきました。そして、その時代の法律や判例に照らして困難な案件であっても、肌で感じたものを信じ、新しい理論を考えていかなければならないと先輩方から教えられてきました。ところが、少しばかり弁護士でいる時間や経験が長くなると、以前に比べて話をじっくり聞かないまま安易に答えを出してしまっている自分に気付くことがあり、最近では改めて相談者の話をしっかり聞くことを心がけるようにしています。
そんな中、2017年1月に地元の内科医師が集まる勉強会に呼ばれて薬害肝炎事件について講演したことがありました。講演のあと、ある若い医師とHPVワクチンの話題になったところ、その若い医師は「あれは全く問題がなかったと産婦人科学会も言っていますよ」と何の疑いも持っていない口ぶりで述べていました。彼女たちの心身を襲い続けている深刻な被害は、「HPVワクチンの影響であると科学的に立証されていない」「思春期の少女特有の心因性のものだ」として医療界から冷たい目で見られ、詐病や演技だという医師までいるのが現実です。
「私たちのことをちゃんと見てほしい。」「ネットや新聞ではわからないことがきっとあるはずです。」これは、2018年10月14日に行われたHPVワクチン東京訴訟支援ネットワークの総会で、ある被害女性が訴えた言葉です。医学者でもない彼女たちにできるのは、被害を一生懸命に訴えることだけです。その小さな声を自分の耳で直接聞くこともないまま、学会や偉い先生が言っているからというだけで疑わない医師たちの姿勢に危うさを感じます。今の医学の中で説明できないからと言って安易に心因性と決めつけ、被害者に冷たい視線を送るのではなく、患者の語りにしっかりと耳を傾けた上で真実を解明する努力や支援を行うことこそ医療界の役目ではないでしょうか。
さて、薬害肝炎東京原告団・弁護団は、「薬害教育プロジェクト」と題して2013年から全国の中学校において目の前で被害者の語りを聞いてもらう取り組みを行っています。また、タイアップ東京も、連続企画「映像とともに振り返る薬害」と題して、過去の記録映像の中の薬害被害者の語りを聞きながら、今後の薬害根絶を考える企画を行っています。
被害を肌で感じる。弁護士としてその大切さをいつまでも忘れることなく、そして、かつての自分のように薬害の深刻さを肌で感じた人がひとりでも薬害根絶の活動に参加してくれることを期待しながら、活動を続けていきたいと思います。