No.54 (2017-03-01)
●ブロッカー配合胃腸薬のスイッチOTC化
H2ブロッカー配合胃腸薬は、H2ブロッカー(シメチジン、ラニチジン、ファモチジン)を含む胃腸薬で、胃酸の分泌を抑制する効果がある。もともとは医療用医薬品として消化器潰瘍の治療に用いられていたが、1997年に、胃炎のうち酸分泌が原因と思われる胃痛、胸やけ、もたれ、むかつきに使用することを目的に、処方箋不要で薬局で購入できる一般用医薬品とすることが認められた。このように医療用医薬品が一般用医薬品に転用されたものをスイッチOTC薬と呼ぶ(OTCはOver The Counterの略)。
●ブロッカー配合胃腸薬の危険性
しかし、H2ブロッカー配合胃腸薬は、医療用医薬品とされていた当時から、厚生省(当時)によって死亡例を含む副作用についての注意喚起がたびたびなされており、医療現場において慎重な取り扱いが求められていた医薬品だった。また、相互作用(飲み合わせ)によるリスクや、患者が自己判断で対処してしまうことによりがんや潰瘍などの重大疾患の発見を遅らせる危険もあり、一般用医薬品としての安全性に問題があると考えられた。
当会議は、関連製薬企業と日本薬剤師会に対して質問書を提出し、スイッチOTCとすることの妥当性を問いかけた。
●販売実態調査の実施
これら質問書に対する企業側の回答は、販売現場に対して服薬指導に必要な情報提供を行っており、適切な服薬指導がなされているなどとするものであり、日本薬剤師会からの回答は、ポスターを配付するなど努力しているとするものであった。しかし、当時、薬局で一般用医薬品を購入する際に服薬指導など受けたことがないというのが消費者としての実感であり、それは、店舗数を増やしていたチェーンドラッグストアで顕著だった。
そこで、当会議は、タイアップグループと協力して、チェーンドラッグストアにおけるH2ブロッカー配合胃腸薬の販売実態調査を行った。全国113店の調査で、全く説明がなかった店が54.9%、添付文書を読むよう指示しただけの店が13.3%で、当会議が重大事故防止のため最低限説明して欲しいと考えた6項目全てを説明した店はゼロだった。また、日本薬剤師会のポスターが掲示されていた店は4.4%にすぎなかった。
●一般用医薬品販売制度改正への影響
この実態調査の結果は厚生省を動かすことになり、チェーンドラッグストアへの立ち入り調査が行われて、薬剤師の不在や名義貸しの実態が明らかとなった。
杜撰な販売現場の実態を受けて、当会議は、H2ブロッカー配合胃腸薬の販売中止と、薬剤師による情報提供体制の改善などを求める意見書を提出した。販売中止は実現しなかったものの、一般用医薬品の販売実態に対する問題提起は、その後、リスク分類に応じた説明義務を求める一般用医薬品販売制度の薬事法改正(2006年)につながり、H2ブロッカー配合胃腸薬は薬剤師による書面を用いた情報提供が義務づけられた第1類医薬品に分類されている。
H2ブロッカー配合胃腸薬への取り組みは、当会議と全国のタイアップグループの機動力が連携して大きな成果を挙げた好例である。