No.53 (2016-11-01)
2016年4月18日、「予防接種に関わりのある関連学会の専門協議会」であるとされる「予防接種推進専門協議会」は、「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)接種推進に向けた関連学術団体の見解」(以下、「学術団体見解」といいます)を公表しました。これに対し、薬害オンブズパースン会議は、2016年7月4日、協議会の参加学術団体15団体及び見解に賛同した非参加学術団体2団体に対して、学術団体見解に反論する意見書を提出しました。
学術団体見解は、「専門的な見地から、本ワクチンの積極的な接種を推奨するものであります」としています。しかし、これまでの副反応報告や、患者の診察にあたっている医師の研究報告から、HPVワクチンの安全性に重大な問題があることは明らかです。一方でHPVワクチンの有効性は限定的であり、接種を推奨すべきではありません。
さらに、このような意見の相違に留まらない、学術団体見解の重大な問題点は、科学的に不正確な記載によって、HPVワクチンの安全性を強調していることです。
学術団体見解は、2015年9月に発表された厚生労働省の副反応追跡調査の結果について、「未回復の方は186人(のベ接種回数の約0.002%) です」、「つまり、10万接種あたり2人が未回復の症状を残しています」など、あたかもそれが未回復副反応の発生率であるかのように記載しています。しかし、この調査は自発報告に基づく調査ですので、症状が発生していても報告されない症例が他に相当数存在することは、医薬品の安全性評価における常識です。また、この調査では、対象症例の約1/3が、転院などによる追跡不能のため解析から除外されています。このような未報告例や追跡不能例の存在からすれば、前記の調査結果を未回復副反応の発生率であるかのように記載するのは明らかにHPVワクチンの危険性を過小評価するものです。
このことは原資料を読めば素人でも容易に分かることであり、17もの学術団体の委員たちが真剣に検討したとはとても考えられない、お粗末な内容です。そこで、意見書では、各学術団体に対し見解への賛同を撤回するよう求めましたが、撤回した団体はありません。
学会が厚労省から下書きをもらって裁判所の和解勧告を批判する声明を発表した「薬害イレッサ下書き事件」でも、『学会声明』なるもののいい加減さを見てきた私たちですが、この体質は一部の学会だけのものではないようです。医学会に求められるはずの「科学者としての矜持」はどこに行ってしまったのでしょうか。