No.50 (2015-11-01)
ベンゾジアゼピン系薬剤(BZ系薬剤)は、「安定剤」や「睡眠導入剤」などとして、一般内科など精神科以外にも広く処方されている薬剤です。BZ系薬剤は、臨床的には、鎮静、抗不安、筋弛緩、抗痙攣を発揮しますが、その効果は短期的であり、常用量の使用でも2週間以上の使用により依存・耐性を発現することが確認されています。欧米では、乱用や依存、習慣性、健忘作用などが社会問題化し規制が強化されてきましたが、我が国では、耐性や依存は大量使用や乱用した場合に発現する問題として、通常の使用については、安心して使える精神安定剤という認識が一般化しています。また、欧米では2〜4週間までという厳しい処方期間の制限がありますが、わが国では1回の処方日数が30日以内という制限があるものの、継続処方期間の制限がないため継続服用が可能であり、10年以上服用が約20%という調査報告もあります。
日本におけるBZ系薬剤の消費量は世界最多で、世界の40%という報告もあります。日本では、BZ系薬剤の適応は広く、不安や不眠の治療のみならず、整形外科的痛み、内科における高血圧症などに伴う精神的症状への使用として認められており、安易に処方され、耐性化の認識がないまま、一旦処方されると継続的に処方される傾向にあります。その結果、耐性化による増量や、多剤併用となり、新たな身体的、精神的症状に悩まされる深刻な事態に至ることもあります。中止や減薬による離脱症状を回避するための、アシュトンマニュアル日本語版が公表されていますが十分活用されていません。また、離脱を専門とする医療機関も当会議の知る限りでは存在しません。BZ系薬剤は広く手軽に処方されているため、服用している薬剤がBZ系薬剤という認識もないまま、BZ系薬剤の多剤併用投与を受けている場合もあります。
そこで、当会議として関係各企業および厚労省などに対して以下についての要望書を2015年10月28日提出しました。
1 関係各企業に対する要望
(1) ベンゾジアゼピン系薬物について、以下の点について添付文書を改訂すること
ア 常用量依存症と離脱症状、BZ系薬剤同士の多剤併用の有害性を警告欄に明記すること
イ ジアゼパムの力価との等価換算値を記載すること
ウ 処方期間の継続に制限を設けること
(2) 患者の自己決定権を保障するため、当該薬剤がBZ系薬剤であること、BZ系薬剤の依存性や離脱症状、適切な離脱方法を明記した患者向け説明文書を作成して、医療機関でBZ系薬剤を処方された全ての患者に交付させるとともに、同説明文書をインターネット上に公開すること
2 厚生労働省に対する要望
(1) 関係各企業に対して、上記1(1)のとおり添付文書を改訂するよう指導すること
(2) 関係各企業に対し、上記1(2)のとおり、患者の自己決定権を保障するための情報を積極的に告知するよう指導すること
(3) 薬剤情報提供文書にBZ系薬剤の依存症が必ず記載されるための適切な施策を講ずること
(4) 平成26年度「依存症治療拠点機関設置運営事業」において指定された全国拠点機関及び5つの依存症治療拠点機関に、BZ系薬剤依存症に特化した部門を設置して専門的な治療や研究を実施させるとともに、少なくとも各県に1医療機関をBZ系薬剤依存の専門的治療を実施できる治療拠点機関として指定すること
3 学会に対する要望
日本睡眠学会や日本精神神経学会は、BZ系薬剤の依存性と多剤併用の有害性を周知啓発するため、所属学会員のみならずそれ以外の医療関係者をも対象とした研修を実施すること
4 文部科学省に対する要望
BZ系薬剤の依存性と多剤併用の有害性について、医学部及び薬学部における教育を強化すること