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 2013年1月11日、インターネットを使った医薬品販売を一部禁止した厚生労働省令が有効かどうかを争った裁判で、最高裁の判断が下され国の敗訴が確定した。非常に残念な気持ちである。

 処方箋が不要な大衆薬と呼ばれる一般用医薬品は、薬剤師など専門家が直接消費者に販売するため、注意事項の説明など販売側に任せられていたが、少しでも経費を節約したい経営側にとってみれば、積極的に取り組みたい事項ではなかったのではないだろうか。駅前には量販店が増え競争が激化する中で、売上に繋がらない消費者の安心安全は台風の翌朝の傘のように置き去りにされていったと思う。

 2004年、厚労省は一般用医薬品販売において、消費者へのリスクマネージメントが十分に行われてこなかったという反省から、医薬品販売制度改正検討部会を設置し、情報提供や相談応需など消費者保護に立った医薬品販売のあるべき姿を模索した。私も委員として部会に参加したひとりである。議論の結果、原則対面販売、ネットでの医薬品販売はリスクの低いものに限るとし、2006年に医薬品販売に係る法律・省令は改正された。

 消費者の中には、ネットで買えないのは過剰規制と捉える人もいるかも知れない。しかし、医薬品が持つ副作用というリスクを最小化することは、それほど容易ではなく注意を怠ってはいけないと私は常々思う。

 少なからぬ人が自分は正しく医薬品を服用していると胸を張るのではないか。しかし、牛乳やジュースなどで薬を飲むことで副作用を誘発することを知っているだろうか。服用水が不足すると薬剤が溶けきれず効能効果が十分に発揮できないことを知っているだろうか。

 副作用報告がどれだけあるか知っているだろうか。国に寄せられる副作用報告は増加の一途を辿り、年間で10万件を超えている。たった一度でも大きな副作用に見舞われれば、あっさり人生の変更を余儀なくされる。薬の性質を知るなど注意を払うことで軽減できるリスクも多く、専門家に情報提供や相談応需を義務づけることは消費者にとって大きなメリットになると私は思っている。

 これまで対面販売でも後回しになってきた安全対策を、監視管理の難しいネット販売業者が新たに経費を負担して対面販売が目指す水準を確保するだろうか。会社が大きく体力のあるところでは安全策を講じられても、何の規制も罰則もない中で業者によっては偽薬が売られるなどの問題が起きてもおかしくない。

 医薬の歴史にはサリドマイドやスモンなど、一般用医薬品が起こした薬害で多くの命を奪った薬害事件と呼ばれる負の遺産がある。

 薬害の原因は予想しなかった副作用が被害を深刻にしたのではない。被害の蓄積がなければ副作用と認めず、情報を隠蔽する企業の言い分にだけ耳を傾け、警告も回収もせず加害者に荷担したことではなかっただろうか。医薬品産業は薬を売ることを望む人々で成り立っている。この立ち位置を関係者は忘れてはいけない。

 今もなお、消費者は大きな利益を生む企業の前では無力で、薬害の火種はなくなっていないと思う。今回の判決が、これまで消費者の犠牲を生んできた、あの道に繋がっていないことを切に願いながら、自分の掲げる理想に近づけるよう努力したい。

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