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1 薬害イレッサ「下書き」提供事件
 2011年1月7日、薬害イレッサ訴訟において、東京地裁と大阪地裁は、被告アストラゼネカ社と国に被害者を救済する責任があるとする内容の和解勧告を行いました。原告側が和解勧告の受け入れを表明し、被告側の対応が注目される中、1月24日に日本肺癌学会などから和解勧告を批判する内容の見解が公表され、被告国は、医療界にこれらの反対意見があることを理由の一つとして、和解勧告を拒否しました。
 ところが、これらの学会の見解は、実は、厚生労働省が学会に働きかけて出させたものでした。細川厚生労働大臣(当時)の指示で組織された検証チームの調査報告書によれば、厚労省は合計6学会に働きかけを行い、うち3学会には学会名の声明文の案(下書き)を渡していました。しかも、学会への働きかけを行うことは医薬食品局長が主宰した会議で決定され、また働きかけには事務局長や技官トップの大臣官房審議官も関与するなど、組織ぐるみの行動だったことも明らかになりました。そして、このような働きかけを受けた学会のうち、日本肺癌学会、日本臨床腫瘍学会、日本血液学会と、個人としての日本医学会高久史麿会長が見解を公表していました。

2 でたらめな調査報告書
 これらの厚労省の行為は、国の責任を認めた和解勧告をつぶすために、学会の権威を利用し世論を欺くもので、前代未聞といえます。ところが、厚労省の検証チームの調査報告書は、学会への働きかけは「広報」であり「通常の職務の執行の範囲内」であるとし、また学会が公表した見解には「不当な影響力ないし圧力が及んでいたとは認められない」としました。しかし、秘密裏に学会に働きかける行為を「広報」とはとてもいえませんし、厚労省が渡した下書きと公表された見解の類似性や、厚労省の要請から見解公表までわずか5〜6日しかかかっていないことからしても、見解公表に厚労省の影響力が強く働いていることは明らかです。

3 情報公開訴訟の提起
 さらに、調査報告書は、個人名や学会名を全て匿名とし、厚労省からの働きかけの具体的内容も明らかにしないなど、情報公開の点からも非常に問題があるものでした。そこで、当会議では、関係者からの事情聴取の記録や、学会関係者に送られたメールなどの情報公開請求を行いましたが、開示された文書はほとんどが黒く塗りつぶされ、「開示」というに値しないものでした。これに対し、当会議は、10月20日、黒塗り部分の開示を求める情報公開訴訟を東京地裁に提訴しました。

4 学会に対する要望書提出
 一方、この事件では、学会の対応にも非常に問題があります。この事件は、学会の公正さについてきわめて強い疑問を抱かせるものといえます。学会は、この事件の一方当事者として、またその公的役割に照らしても、事件について自ら説明する責任があると考えます。そこで、当会議は、10月20日、学会としての見解を公表した日本肺癌学会、日本臨床腫瘍学会、及び日本血液学会に対し、事実関係の調査と結果の公表を求める要望書を提出するとともに、「わが国の科学者の代表機関」を標榜する日本学術会議に対して、学術団体と行政や企業との関係の在り方についての見解の公表を求める要望書を提出しました。

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