No.34 (2010-07-01)
シンポジウム前夜の2010年6月4日、デービッド・ヒーリー氏、デレリー・マンギン氏を囲んで、薬害オンブズパースンメンバー及びタイアップメンバーとの意見交換会を開催した。ヒーリー氏の著作を翻訳された精神科医の田島治氏にも参加をお願いし、充実した意見交換となった。その内容のごく一端をご紹介したい。
まず、ヒーリー氏は、かつて医師は医薬品に対して懐疑的な見方を持っていたため、医師に処方権を与えることは医薬品の適正な使用を担保する意味を持っていたが、医師に対する製薬企業のマーケティングの結果、医師が安易な処方をするようになったと指摘して議論の口火を切った。そして、医師はエビデンスに基づく評価を重視するが、そのエビデンス、特に臨床試験のデータ自体が企業によってコントロールされている点が問題であるという共通の認識に立って、これをどう打開するのかについて意見を出し合った。臨床試験の登録とデータの公開、企業に頼らない独立した基金の必要性などの他、以前当会議でも紹介したシルビオ・ガラティーニ氏のいくつかの提案なども紹介され、臨床試験の管理に患者が参加していくことの必要性が指摘されたが、マンギン氏からは、患者団体も製薬企業のマーケティングの対象となっている点についての問題提起もあった。
次に、ゴーストライティングの問題について議論した。ヒーリー、マンギン両氏が指摘したことは、誰が書いても、臨床試験の生のデータにアクセスできれば、その論文の信頼性が検証できるが、アクセスが制限されている点に本質的な問題があるということであった。もちろん、生データにアクセスしていない研究者が名前を貸すことの倫理的問題等の指摘もあった。
そして、議論は、臨床試験データへのアクセスを阻んでいる企業の知的財産権の保護の問題に発展し、臨床試験は患者が公共の利益のために関与して行われたものであるから、企業の知的財産権を公共性という観点からコントロールすることが必要であり、そのためのより踏み込んだ研究が必要であるということなどを話し合った。
SSRIによって引き起こされる自殺衝動や攻撃性の問題については、オピニオンリーダーの立場にある多くの専門医が、抗うつ剤との関連性について否定的に考えて、双極性障害等の問題と評価してきた問題点が指摘され、企業から独立した立場での公正な評価が行われなければ、いかにデータが公表されても問題は解決しないという点について話し合った。
また、妊娠の可能性がある若い女性が軽症でSSRIの投与を受け長期間服用する例が増えているという現状認識の下で、一度服用を始めると離脱症状に配慮して急激な中止ができないことを踏まえた対応が必要であるという点を確認した。
この意見交換会を通じて、当会議が今後取り組むべき課題が一層はっきりしたと感じている。是非とも、今後の活動に生かしていきたい。