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 2009年7月17日付で、グラクソ・スミスクライン株式会社(以下GSK)と厚生労働大臣あての「抗うつ剤パキシル錠の児童・青年を対象とした製造販売後臨床試験に関する情報の公開を求める要望書」を提出しました。要望書では、GSKが実施している「パキシル錠の児童・青年期大うつ病性障害に対する有効性および安全性の臨床評価 -プラセボを対照とした二重盲検並行群間比較試験-」に関し、臨床試験の実施が必要かつ妥当であると判断した根拠、被験者リクルートの現状と有害事象に関する情報、などについて明らかにすることを求めました。
 今回対象とした臨床試験は、抗うつ剤パキシル(塩酸パロキセチン)の大うつ病性障害に対する効果を7〜17歳の児童・青年で確認するためのランダム化試験です。GSKの臨床試験公開情報によると、現在国内の26医療機関が参加して行われています。またこの試験は、日本国内だけで実施されている試験でもあります。
 さて、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)の一つであるパキシルについては、当会議でも2008年5月、SSRIに関する衝動性亢進や性機能障害の有害事象を問題とした要望書の中で取り上げ、その危険性について検討してきました。
 現在、パキシルは18歳未満に対して使用禁忌ではありませんが、かつて英国では2002年から2003年にかけて自殺企図などの問題が話題となり、18歳未満については一旦使用禁忌となりました。2003年には米国でも同様の措置がとられ、このような欧米規制当局の対応を受けて、日本でも18歳未満の大うつ病性障害患者に対して使用禁忌の措置がとられたという経緯があります。その後自殺に関連した危険性は抗うつ剤全般における問題であるとして、欧米でも日本でも18歳未満使用禁忌という措置は解除されましたが、パキシルについて安全性が確認されたわけではありません。
 一方、児童・青年期の大うつ病性障害に対するパキシルの効果については、すでに欧米で複数のプラセボ(偽薬)対照臨床試験が行われており、いずれの試験でも有効性は確認されていません。また小児期のうつ病については、そもそも疾患概念が確立しているのか、正しく診断できるのかという問題点も指摘されています。
 小児を対象とした臨床試験では、成人以上にその安全性や倫理性の確保が重要です。海外の臨床試験において有効性が確認されなかったうえに、自殺に関するリスクが増加する可能性などが示唆されている薬剤について、日本の小児を対象とした臨床試験を実施する必要性と妥当性はあるのでしょうか。この臨床試験の実施を妥当とした国および製薬企業は、その判断根拠を国民に向けて明らかにする責任があります。そして当会議としては、十分な情報開示のもと、公開の場での再検討がなされるべきと考えています。
(補)本稿執筆後の2009年10月5日、GSK社からの回答書が届いた。回答書に示されていたのは既に当会議が入手済みの情報のみで、試験の必要性と妥当性を裏付ける新たな情報の提示は無かった。

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