No.25 (2006-11-01)
抗菌剤ガチフロキサシン(商品名ガチフロ錠;キョ-リン)は、他の同効薬剤に比べて血糖異常を起こさせる害作用が非常に大きい、という疫学調査の結果が英国の医学雑誌(NEJM誌2006.3)に発表された。米国の消費者団体であるパブリックシチズンは、FDA(米国食品薬品局)に対して、ガチフロキサシンを即時中止するよう請願している。当薬害オンブズパースン会議も厚生労働省とキョーリン、大日本住友製薬両者に対して、承認を取り消し市場から回収することと、誤った承認を繰り返さないよう検証することを要望したところである。
ガチフロキサシンは、肺炎などの感染症を起こさせる原因菌(細菌あるいはマイコプラズマなど)に対して、DNAを複製する段階を妨害して殺菌するとされている。他の抗菌剤が効きにくいタイプの肺炎球菌やインフルエンザ菌による肺炎に効果があるとの理由で承認されたが、肺炎の4大原因菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマ、クラミジア)に試験管内で抗菌作用が認められることから、「原因菌が特定できない肺炎にも使い勝手のよい薬」と宣伝されて使用された。ところが、発売後に低血糖や高血糖を起こす例があいついだ。比較的安全で同様の効果のある抗菌剤は他にもあり、ガチフロキサシンが販売中止となっても治療に困ることはない。だが厚労省がとった措置は、緊急安全性情報のみで、ガチフロキサシンは依然として販売され使用されている。
実は、この血糖異常の害があることは、承認前に既に十分わかっていたことだった。医薬品が承認されるまでには、動物実験、少数の健康人に対する試験(人における薬物の体内動態や至適用量等を調べる)、実際の患者に対する臨床試験(治療効果を調べ安全で有効な用法を決める)を行うが、この承認時の資料に、血糖異常を起こさせる裏付けとなる膵臓への害作用が示されていた。動物実験でも臨床試験でも血糖の低下や上昇が起こっていたし、その作用は薬の用量が多いほど強く現れていた。また、わずか4週間の使用後に、膵臓のβ細胞(インスリンをつくる細胞)が変成を起こしている。つまり、血糖を下げるインスリンを過剰に分泌させるため、空腹時では低血糖を起こさせ、長期にわたればβ細胞を傷害しインスリン不足を起こさせて糖尿病を誘発する(または悪化させる)ことにもなる。
疑問なのは、審議会もこの害作用を問題にし、何度もメーカーとやりとりをしているにも関わらず、なぜ承認されたのか、ということである。メーカーはこの害作用は「高用量での変化であって、実際の臨床では問題がない」「作用は一過性でやめれば戻る」「実質的な問題はない(メーカー独自の基準により)」などと答弁し、それを審議会は鵜呑みにした。驚いたことに、治験の信頼性を確保するために設けられている、規定の違反や併用禁止薬の使用、臨床検査の実施日の相違、一部医療機関でカルテの紛失があったなど、実に多くの不適合まであった。これらの不適合はデータを除外するだけで審査を通したのである。
ヨーロッパでは、「糖尿病には禁忌」、心毒性を「禁忌と注意事項」(ここでは説明を省く)に入れた上、ペニシリンやマクロライドなどの一時選択薬で効かない(耐性)肺炎連鎖球菌と複雑性尿路感染症の2疾患のみを適応とした。しかも8項目の条件付き承認である。承認することを拒否した審査委員もいたほどである。安全性、有効性について厳しく審査する態度の、なんと違うことだろうか。
日本ではガチフロキサシンは、明らかな害作用を過少評価され、広範囲の感染症に対して適応が承認された。他に代わる抗菌剤はたくさんあるし、他剤に比べて害作用の大きい本剤に何の有用性も認められない。国民の安全を守るのが厚労省と審査センターの役目であるべきである。厚労省と審査センターは、承認の誤りを認め、ただちに承認を取り消して回収してほしい。