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薬害エイズ訴訟が和解してから10年を経過した。厚生労働省前には、薬害根絶の碑が建立された。しかし、薬害は後を絶たず、その後も薬害ヤコブ病(1996年以降提訴、2002年和解)や、薬害C型肝炎(2002年以降提訴)、そして薬害イレッサ(2005年以降提訴)などが続いている。
C型肝炎は、決定的な治療法が見つかっておらず、発症すれば慢性肝炎、悪化すれば肝硬変、肝がんへと移行するという重篤な疾患である。C型肝炎は、輸血など血液によって感染するが、薬害C型肝炎事件は血液製剤(フィブリノゲン製剤、第9因子製剤。血液の凝固に必要な因子は12あり、そのうち第1因子の製剤が前者、第9因子の製剤が後者)の使用による感染である。これらの血液製剤は出産や手術などの際、止血剤として使用された。主に製造、販売したのは、薬害エイズ訴訟でも被告であった旧ミドリ十字(現・三菱ウェルファーマ)であった。
 フィブリノゲン(以下F)製剤は1964年に製造承認を受けた。この製剤は肝炎ウィルスの不活化(病原体としての働きをなくするようにすること)のために紫外線照射をおこなっていたが、旧ミドリ十字の内藤良一専務(当時)は、1963年発行の「日本産科婦人科学会雑誌」で、この方法では肝炎には「ほとんど無効」と「学者から判決がくだされた」と記載していた。ところが、その後、同社はF剤の添付文書には「紫外線照射を施したものは肝炎発症率は極めて小さい」などと記して販売し続けていたのである。「内藤論文」には、血液製剤による肝炎の罹患率を5%、死亡率1%と仮定すると、毎年5千人の患者を出し、10年の間に5百人が死亡する「肝炎災害」が起きていたとの数字まで記載していたにもかかわらず!(詳細は、片平洌彦:東洋大学HIRC21研究年報第3号、2006年参照)。
 この内藤良一という人物は、悪名高い731部隊に関係したことで知られているが、さらに、その後の「逸話」がある、それは、肝炎の新しい検査法が出来た時、古い方法を用い続けたため、その理由を問われた時に「その方が、肝炎が見つかるのが少なくてすむから」と回答したというのである(「薬害エイズ国際会議」53頁、彩流社、1998年)。製薬企業の評価として、人々を病苦から解放する「生の商人」という見方があるが、これでは、まさに「死の商人」ではないか!
 そうした悪徳企業を監視し、国民を薬害から守るのは国の責務である。ところが、旧厚生省は、当時の薬事法で「病原微生物により汚染され、又は汚染されているおそれがある医薬品」は製造・輸入・販売が禁止されていたにもかかわらず、そして、F剤使用による肝炎感染の危険性は公表の文献で指摘されていたにもかかわらず、企業の申請のまま承認してしまったのである。
 薬害C型肝炎訴訟は、来る6月に大阪で、また8月には福岡で判決が出される。それらの判決が、感染被害に苦しむ被害者、さらには200万人とも言われる全ての患者さんのため、また薬害根絶のために真に役立つことを切に願うものである。

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