No.19 (2004-04-01)
「独立行政法人医薬品医療機器総合機構法」は、2002年臨時国会において成立した。同法案は、衆議院において関連45法案とともに審議に供されたため、この法案の本質的問題点を国会議員ですら理解していない状況にあった。こうした中、「全国薬害被害者連絡協議会」「薬害オンブズパースン」を中心とした市民団体は国会に対する強い働きかけを展開し、結果、坂口力厚生労働大臣は、問題点を整理する答弁を行った。
その後、大臣は、「薬被連」と面談し、独法設立に向けた協議が事務方と「薬被連」との間でもたれる事になった。国会において大臣が整理した内容が本当に新法人に反映されているかどうかを、「薬被連」と厚生労働省との協議の中から拾ってみた。
1、「独立行政法人設置の目的は、医薬品審査体制の統合強化と安全対策の充実強化、生物由来救済制度の早期実現である。」
現在、医薬品の審査に係る予算は、約49億円であり、安全監視に係る予算は約5億円である。新法人設立後初年度は、それぞれ、約66億円と15億円であり、一見安全対策予算が3倍となっている。また、定員についても30人は純増の見込みである。現在の安全対策要因は、本省内でさまざまな併任業務がある事から、実質50人ほどだと思われる。これらの数字だけを評価すると安全対策が強化される事に嘘はない。しかし、もうすこし全体を見てみると異なった本質が見え隠れする。
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下新機構)は、従来分散していた国の外郭審査部門を統合し、そこに安全対策部門を加えた独立行政法人というのが実態である。救済部門は現状の医薬品副作用被害救済制度と同様の生物由来感染症救済制度の事務をどうにか行える程度の規模でしかない。審査部門は、平成17年度までに約100人規模の増員を予定している。乱暴に言ってしまえば、ほとんど「審査機関」なのだ。しかも、欧米並の迅速審査を10分の1程度の人員でこなそうとしている。市販後安全対策初年度予算15億円の内、9億円が製薬企業の負担であることも併せて考えると、今後、限りなく臨床試験段階に近い医薬品が早期に市場に出てきて、市販後4相、4.5相試験を行うと言うのが実態に近い。リスクとベネフィットを患者が十分理解したうえで、患者が最終的に新薬の使用を決断する事は必ずしも否定しないが、それは企業側が十分な情報を提供し、医師がその情報を完全に患者に伝える事ができる体制があっての上での事である。現状は、イレッサの教訓が全てを物語っている。
2、企業との関係が深まると言う懸念を払拭するために、積極的な情報提供を行い、就業規則、採用規程、倫理規程等の諸規程を作成し、公表する。
大臣は、製薬企業の元役員を理事長、幹事には採用しない他、理事も同様の扱いをする事を明言している。しかし、採用基準等内規においては、過去5年間に在職していた企業での部所と関連のある部所に2年間は就けない事や守秘義務、退職金の返還請求程度しか検討されておらず、極めて曖昧である。今後の重要な課題である。
3、医薬品等による健康被害を受けた方々の代表を含めた学識経験者の幅広い意見を反映するため、現行の評議員会に相当する審議機関を規制と振興の部門ごとに設置する
この審議機関については、事務方との協議において、最も時間を割いた部分である。被害者の複数参加や公開の在り方は、薬被連側の主張がほぼ新法人に引き継がれる事となった。しかし、あくまで最終決断が新法人に委ねられている為、実現に向けては課題がある。
4、研究開発振興業務については、その一層の効果的展開を図る観点から、当該法人から分離することを将来的な課題として検討する
これは、今期国会に提出された、「独立行政法人医薬基盤研究所法案」(以下基盤研法案)成立後は、新機構の研究開発振興業務が移管される。本来「医薬品被害救済・研究振興調査機構」(以下機構)は、スモン薬害の和解に基づいた医薬品副作用被害救済基金が母体となっている。この機構が、研究開発業務を行う事をスモン被害者が承諾したのは、「困っている希少疾病の患者さんを助ける為」だったからだ。機構における業務がこうしたスモン被害者の願いを十分汲み取った物であったかどうかも甚だ疑わしいが、基盤研法案を見る限り、この独立行政法人が患者の方に向いていないのは一目瞭然である。倫理面での問題を含め、独立行政法人医薬基盤研究所にも新機構と同様の審議機関を設置し、薬害被害者を含む国民の監視が必須である。
以上簡単な総括をのべてきたが、新機構と厚生労働省のタッグが、巨大な製薬企業の市場戦略に立ち向かう事になるわけだが、そのタッグパートナーが実は製薬企業寄りだとすれば、我が国の市場にいわば「不透明な化学物質」が溢れる事になる。一般用医薬品のコンビニ販売の問題も含め、厚生労働省すら、企業寄りになるとすれば、情勢は極めて悲観的と言わざるを得ない。私たち、薬害被害者を含む国民が真剣に、医薬行政、医療行政を監視し、患者=消費者の主権を確保したシビリアンコントロールが必要である。
【独立行政法人問題の経緯】
小泉内閣の行政改革課題として掲げられている特殊法人改革について、平成13年12月、「特殊法人等整理合理化計画」が閣議決定され、同14年10月18日に、これらの多くを独立行政法人化することを内容とする特殊法人等改革関連法案を閣議決定し、国会に法案提出した。
しかしながら、この法案のうち、独立行政法人医薬品医療機器総合機構に統合される業務の中に、「計画」決定時にはなかった「市販後安全対策業務」(医薬品副作用報告等の受理、安全情報の調査、安全情報の提供等)が加わっていた。この独立行政法人は製薬企業からの採用を念頭においており、自己の製品を自己診断するに等しい結果となるばかりか、薬害エイズの反省から分離した研究振興部門と安全対策部門を再び統合することを内容としており、重大な問題を抱えていた。
結局、法案は与党の賛成多数で成立したが、研究振興部門の将来の分離、機構のあり方について薬害被害者との定期的な協議などが約束され、事実上法案の問題点は修正されるに至った。現在、この薬害被害者と厚生労働省との協議が定期的に続いている。