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 5年前、薬害オンブズパースン会議は、ベロテックの検討から始まった。鈴木代表の問題提起を受けて、TIP誌(医薬品・治療研究会)と医薬ビジランスセンターで、全ての喘息用薬剤を徹底的に比較検討した。当初の予想をはるかに超えるベロテックの危険性が疫学調査、薬理試験、毒性試験、臨床試験データで判明。危険性は明白となった。たとえば、動物の毒性試験では、同じ目的で使用される薬剤サルブタモールに比較して、1000倍も心臓に対する危険性が大きいことがわかった。マスメディア、パソコン通信のフォーラム、ニュージーランドでベロテックの危険を疫学調査で指摘したクレイン博士を招いてのシンポジウム、医薬ビジランスセミナーなどを通じて危険性のキャンペーンを開始するとともに、ベーリンガー・インゲルハイム社、厚生省にもベロテック中止の申し入れをした。ベーリンガー・インゲルハイム社は「安全」との主張を繰り返したが、その都度、徹底した再反論を繰り返し、喘息患者の突然死との因果関係は不動のものとなった。

◆使用量は70%減、死亡者は60%減
 キャンペーンを開始した直後の1997年6月からベロテックの生産数量はガクンと半減し、それとともに、喘息患者(通常疫学調査では5-34歳を用いる)の死亡率も減少した。毎年9-11月は喘息死亡率がピークとなるのだが、ほとんど増えず、例年の約40%減となった。メーカーをはじめ、ベロテックの危険を認めたがらない人たちは、減少したのは、吸入ステロイド剤など適切な使用法が徹底したためだと主張したが、吸入ステロイド剤や他の同系統の吸入剤使用量は以前とほとんど変わりなかった。その後もベロテックの生産数量は減少を続け、2001年には、96年以前の30%未満まで落ち込み、それとともに、喘息死は以前の約40%(ベロテック発売前とほぼ同水準)まで減少した。5-34歳の人だけでも毎年150人以上の命が救われていることになる。

◆原因はベロテックと国も認定
 相談のあったベロテックエロゾル使用中に急死した遺族のうち数人が、薬害オンブズパースンらの支援で2000年3月、厚労省所轄の医薬品機構に遺族年金等の支給を申請した。2002年1月に検討を終えた3人中3人に対して、死因「心肺停止」、因薬剤「ベロテックエロゾル」として支給を決定した。公的に、喘息患者の死因として「ベロテックエロゾル」の関与した「心肺停止=心臓死」と認められた意義は大きい。以前、死亡は「過度 の使用での心停止」であり「適正使用するかぎり安全」としていたが適正使用範囲内でも副作用死することが認められたこと、症状の分析から心臓死が判定された点も重要だ。

◆唯一の適応が最も危険なら使い道はない
 現在、ベロテックエロゾルの使用は添付文書上、「他のβ2 刺激薬吸入剤が無効な場合に限る」とされる。これは、まさしく重い喘息発作でひどい低酸素状態に陥っている時であり、心毒性の強いベロテックエロゾルが最も危険な状態だ。唯一の適応症が最も危険で使えなければ、ベロテックエロゾルの用途は消滅する。やはり、なくなるべきものでしかなかったのだ。
 参考:TIP誌1997年6月号、8,9月合併号、2002年1月号

用語説明
ベロテックエロゾル:
臭化水素酸フェノテロール。気管支喘息の治療薬。喘息発作の際に噴霧式吸入器で吸入し、気管支を広げて発作を鎮める。気管支への作用の外に心臓への刺激作用があり、過剰使用による心臓死が問題となっている。

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