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 臨床報告を50例ほど読んだ中に、大学教授が薬物日誌をつけており典型的なハルシオンの作用に依存していく経過の報告があった。それは精神的なストレスによる不眠を解消するための服用だったが、2週間ほどの連用で日中に聴覚異常、自律神経失調がではじめ、たまらずに日中にハルシオンを補給するとおさまった。この繰り返しで、自律神経失調は禁断症状として定着した、と述べている。これは日中に血中に薬物がなくなったために生ずるいわゆる離脱症状で、体内から薬物がなくなるために逆に症状がでてくるというやっかいなものである。症状の回避のために自分で増量していくのがパターンであり、記憶障害、幻覚、攻撃性、せん妄などが出てくる。常用量でおこる恐い依存症である。
 ハルシオンはベンゾチアゼピン系睡眠薬の中で唯一、添付文書に「警告」が記載されている睡眠薬である。しかし、「朦朧状態」や「記憶がなくなる」のはどのような使用量や服用期間の場合になりやすいのか等の情報は書かれていないし、患者用説明文書には危険性があることさえも全く知らされていない。これは恐い事である。ちなみに、「警告」は生命に重大な危機を生じることがある場合に書かれるもので、「医薬品情報提供システム」で調べると医療用医薬品の約5%に「警告」がある。
 一方、開発元の米国ファルマシア・アップジョン社の添付文書(PDR)には、他のベンゾジアゼピン類と比較して依存性が高く記憶障害の報告が多いことや処方期間は7〜10日とすること等、患者に知らせるべきその他の内容とともに詳細に記載されている。これは、1991年米国アップジョン社の許可申請データーに不正があることが発覚したことに端を発して、世界で臨床データーの見直しや販売の規制が行われ、FDAが厳しく条件つきの添付文書を作らせたためである。しかし、激しい副作用(精神作用)を隠ぺいしたことが単に不正問題に止まらなかったことは、FDAが1997年になって、すべてのデーターの質の評価を独立機関であるIOMに依頼したことからも明らかである。しかし日本では何も無かったように、世界のハルシオン販売高の6割が使用されている。これも恐い。


「ハルシオン」とは
  効き目が強く、作用持続時間が短い催眠剤。素早く寝付き、目覚めも良いとして繁用され、連用による依存症、記憶障害などが社会問題につながっている。

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