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 PPA(塩酸フェニルプロパノールアミン)は、鼻水・鼻づまり・くしゃみなどの症状に用いられる鼻炎用薬などのかぜ薬に含まれています。PPAを含む病院で出される薬(医療用医薬品)は「ダン・リッチ」1品目だけですが、薬局などで販売されている薬(一般用医薬品)は「コンタック600SR」「パブロン鼻炎カプセルL」「ベンザブロック」など180品目近くもあり、とりわけ鼻炎用薬には多く含まれている成分です。
 2000年11月6日、米国FDA(食品医薬品局)はPPAを含む医薬品の販売中止を製薬企業に求め、同時に患者・消費者に対しPPAを含有するこれらの製品を用いないよう注意喚起しました。FDAがPPAに関してこれらの措置をとったのは, 米エール大学の最新の研究報告書「PPAと脳出血のリスク」に基づいてです。この報告書内容は著名な医学雑誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」にも論文として発表されました。米国では、PPAはかぜ薬としてのみならず、食欲抑制剤(やせ薬)としても認可されていますが、この薬を飲んだ若い女性に、若年ではめったに起こらない脳出血がしばしば起こったことから、脳出血とPPAとの因果関係を確かめるために行われた疫学的研究です。
 脳出血で入院した18〜49歳の入院患者症例702名と、その症例1名について約2名ずつに相当する、脳出血で入院しなかった以外は同様の条件を備えた対照症例1376名について、脳出血が起こる前3日以内にPPAを含む製品を服用したかどうかについて調査したものです(症例対照研究)。その結果、PPAを含む製剤を服用した女性は、脳出血を起こすリスクが服用しない女性と比較して2倍になることが判明しました。食欲抑制剤(やせ薬)として服用した場合には、リスクが16倍にもなります。PPAの服用量が多いと脳出血がより起こりやすいことは確かですが、脳出血を起こした症例を個々に検討すると、少ない服用量でも脳出血を引き起こしていました。
 FDAがPPAに関して厳しい措置に踏み切ったのは、この報告書を検討した結果、PPAの服用と脳出血との間には関連があると認められること, 脳出血のリスクはきわめて低いものの, 副作用の性格が深刻であるうえ, 誰がリスクを被るか予測がつかないこと, PPAの使用目的は, 鼻水・鼻づまり・くしゃみなどの症状の軽減ややせる目的という軽いものであり、それに伴う重大なリスクとは引き合わないこと, 鼻のうっ血除去にはOTC薬(処方せんのいらない店頭販売薬)でも処方せん薬でもPPA以外のものが代替利用可能であること, などを考慮したものです。なお、研究報告書では男性については統計的に意味のある差は認められませんでしたが、FDAは男性についても脳出血のリスクはあり得るとしています。
 PPAは、別名をノルエフェドリンといい、化学構造がエピネフリン(アドレナリン)、フェニレフリン、エフェドリンなどと類似した、交感神経刺激作用、中枢神経刺激作用をもつ化学物質のひとつです。今回の問題の本質は、PPAが交感神経を刺激して、血管収縮、血圧上昇などにより、脳出血を引き起こすことにあると考えられま
す。従って、脳出血のリスクはPPAに限られたものではなく、医療用では「フスコデ液」「メチエフ」などの咳止め薬、一般用では「カコナール総合感冒薬」「コルゲンコーワET」などに含まれている塩酸メチルエフェドリンなども同様のリスクをもっている可能性があります。
 今回のエール大学の研究は、先にあげたこの問題の発端となった事情から、高齢者は対象にしていませんが、高齢者はもともと脳出血を起こす割合が高いので、PPAなどによる被害がより起きやすいと考えられ、注意が必要です。また、今回は脳出血のリスクに焦点があてられていますが、PPAなどには、脳出血だけでなく、交感神経刺激による心筋梗塞、脳梗塞、腸間膜動脈梗塞、腎不全(腎梗塞による)などの重大なリスクがあり、実際にPPAによる心筋梗塞、脳梗塞などの報告があります。
 これらのPPAのリスクをその必要性と比較して考えるなら、FDAのとった販売中止の措置は当然であり、日本でも同様の措置が必要です。
 しかし、わが国の厚生省(現在は厚生労働省)が昨年11月20日にとった措置は、PPAの使用禁止ではなく、単なる「使用上の注意」の改訂指示であり、高血圧、心臓病、脳出血を起こしたことがある人などには使用しないよう徹底するというものです。この措置だけでPPAによる脳出血を防ぐことはできません。
 薬害オンブズパースン会議では、昨年12月厚生省に対し要望書を提出し、PPAを含有する内服かぜ薬の販売中止と回収措置、ならびにPPA以外の交感神経刺激剤を含む内服かぜ薬の安全性確認を求めています。また、日本製薬団体連合会(日薬連)と日本大衆薬工業協会(大衆薬協)、日本薬剤師会(日薬)にも、要望書を提出しています。
 また、最近では消費者団体の方々に、PPA問題やその他の医薬品問題での協同を呼びかけるなどの活動を行っています。今後とも一層のご支援をお願いします。

用語説明
PPA(塩酸フェニルプロパノールアミン):
鼻炎薬(風邪薬、花粉症薬など)に含まれる成分であり、とりわけ一般用医薬品(OTC)の鼻炎薬の多くに含有されている成分。脳出血のリスクを高めていることが疑われ、FDA(米国食品医薬品局)は製薬企業に対し、PPAを含有する医薬品の販売中止を求めている。

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