No.9 (2000-09-01)
トログリタゾンの顛末を追ってみると、日米英の企業行動の違い、規制当局の対応の違いに驚きをおぼえることが少なくありません。この違いに着目すれば、企業評価も当局評価も意外と簡単にできそうです。
まず、自ら定めた製薬企業倫理綱領など全く忘れてしまったという意味で、いちばん情けないのは三共です。この点は、本年3月の販売中止声明に端的に現れています。同時点で犠牲者はすでに54名を数えていたはずですが、同社はトログリタゾンが危険な薬だから販売を中止するなどとは一言もいっていません。米国市場で同社と戦略的提携関係にあるワーナー・ランバートが「FDAの指示」により、同薬の販売中止を決めたので、「国内においても販売を継続すること」はもはや困難と考え、中止に踏み切ったというだけのことで、言い換えれば、頭の中には販売戦略のことしかないのです。
経営幹部の方々は、業界自ら定めた次のような倫理綱領を今一度じっくりと噛みしめてみる必要があるようです。「製薬企業は、常に生命の尊厳を第一義とし、科学に対する謙虚さをもって自らを厳しく律し、社会の信頼に応えなければならない」。
これに比べ、評価してよいのはグラクソ・ウエルカムです。同社は英国市場で三共と戦略的提携関係にあったわけですが、トログリタゾンの副作用報告が相次いだ97年12月時点で、いったん自発的に販売を中止しています。そして98年8月には、新たなデータを取りそろえ、英国医薬品庁に対し改めて同薬の承認再申請を行っています。販売戦略のことしか頭にない三共や、「FDAの指示」により販売中止を口にするワーナー・ランバートに比べ、安全性にも配慮が行き届いているので、ずっといい点数をあげてもいいわけです。
他方、規制当局に目を向けると、この間の対応で誉めてあげてもいいのは英国医薬品庁、いちばん情けないのは日本の厚生省になります。
英国医薬品庁は99年3月、グラクソ・ウエルカムから出されていた承認再申請に対し、新たに付加されたデータに基づき再審査を行い、トログリタゾンの「利益がリスクを上回るという確証はない」と正解を出しています。危険な医薬品から国民を守るという当局本来の任務をまっとうしているので、高い評点を差し上げます。
これに比べ、日本の厚生省は最悪です。類似薬の太鼓判を臭わせるような発言を行い、先発メーカーに販売中止の「指示」を出したという米国FDAに比べてもなお、いい評点にはなりません。情けないことに、この危ない薬を認可した行政責任など問われるはずがないとでも考えているのか、ただひたすら三共の自主回収声明に身をひそめるだけで、いかなる責任も果たしていないからです。
こうした情けない状況を脱却するために、本会議は厚生省ならびに三共に対する要望書を提出しておきました。
トログリタゾン(商品名ノスカール)に関する要望書要旨
厚生省への要望
1 製造承認の取消
2 有害事象症例について検査データや症状経過等の医療情報の公表
3 本薬剤による重篤な肝機能障害発生の機序等を解明するための研究班の設置
三共株式会社への要望
1 有害事象症例について検査データや症状経過等の医療情報の公表
2 回収の過程と回収の結果についての公表